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「あ、ほら!自動販売機!」
嬉しくて思わず声が弾んだ。
だってさっきから乱馬ってば、喉が乾いた喉が乾いたってうるさいんだもの。
そりゃあ今日は秋口のわりに暑かったけど、もうすぐ家なんだからちょっとぐらい我慢すればいいのに。 聞きわけのない子供みたい。
あたしの指の方へ顔を向け、彼はにまっと笑ってポケットの小銭を探り始めた。
「おっ、新発売だって。これにしよ。」
『chai』て書いてあるベージュっぽい缶を指して言う。
なんだかやさしげでかわいい雰囲気。きれいな赤の新発売シールがよく目立ってる。
ふうん、ミルクティーかー・・・いいな、あたし好きなんだけどな。
きっぱりと「COLD」ボタンを押す彼の指を見ながら、そういえば乱馬ってこういうの決めるの早いよねーなんて考えてると、 プラスチックの扉の向こうでガコンッと重たい音がした。
ぐび、ぐび、ぐび。ぐび。
一拍ずつ遅れてのどぼとけが上下する。
灼けた首すじの腱に汗。
ぐ、びっ。
「どお?」
「ぅんまーい♪」
あんまりいかにもな声で笑ってしまう。
なんだよー、てこっちを見る。口は隠れて見えないけど、目で笑ってる。
いちめんに涼しげに汗をかいた缶はそれでなくてもおいしそう。
「ちょっとちょーだいっ」
「へ、」
間髪入れないで奪ってやった。口つけて飲もうと、した、途端、
「いぃぃっっ!!っとおま、あの、それ、」
・・・しょうがないから飲むのをやめる。
「何よ?」
・・・焦っちゃって。ジタバタ、ぜんまいでも巻いたみたい。
「や、だから、あのほらその、こー、それはほらさっきおれが飲んでたわけで、だってほら、 そゆのってなんちゅーかこう、何だ、か、か、かかっかかかん、かん、」
かん、かん、かん、てなおももぐもぐ言いながら、手を握ったり開いたりばたつかせたり、ちらちら上目遣いで見たりあらぬ方へ視線を外したり。
それから唐突に口ごもって顔をカァーッと赤くして、またもぐもぐイヤまーいーんだけど、とか何とか呟いて・・・
・・・・・・乱馬って。
「バカじゃないの?」
なるたけ大っきな声で言ってやる。
構わずもいちど口をつけ、好きなだけごくごく飲んでから(ホントにおいしい!!)少しぬるくなった缶を彼の手に戻し、 あたしはさっさと歩き出した。
小さな風が首すじに起こる。 ほんのり混じった秋の匂いに気付く。
すがすがしくて気持ちいい。
立ち止まって振り返ったら、さっきと同じ姿勢で缶を握ってる乱馬が見えた。
やさしい色のその缶に入ってたのは、甘い甘い甘いミルクティー。
くすぐったいような紅茶の香りとやわらかくまろいミルクの味と、――そしてひどく微かな温もりの気配。
終
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