【missing EWE 〜Chapter 3〜】
 

 novel kasane   illust kokemomo 

 



 アカネは全速力で走っていました。
 子羊とは言っても、アカネは運動神経がよく、走るのは得意です。
 治り掛けた怪我のところが少し痛みましたが、そんなことは気にしていられません。とにかく、一分一秒でも早くランマのところへ辿り着きたかったのです。会ってどうするのかは自分でも分かりません。それでも、ランマに会いたいと思いました。
 森の入り口が見えてきました。
 待ち合わせの時間はとっくに過ぎています。ランマの姿は見えません。アカネは疾風のように駆け抜けるとその勢いを落とすことなく、秘密の場所へと向かいました。

「baa〜〜〜!(ランマーーーー!)」
 いつもの場所へ着いてみると、そこにはランマの姿はありませんでした。
 待ち合わせの時間からまだ半時間ほどしか経っていません。もし彼がここで一時間過ごしているというなら、今ここにいるはずです。
 それとも、今日はランマが来なかったのでしょうか。
 ぶんっぶんっぶんっ
 アカネは過ぎった不安を掻き消すように小さな頭を横に振りました。
(ランマはきっと森にいるわっ)
 何の根拠もありませんが、アカネはランマがこの森に来てくれていると信じて、彼を呼び続けました。

「baa〜〜〜! baa〜〜〜!(ランマーーーっ!ランマーーーっ!)」

 し〜ん…

 けれども、何度呼んでも返ってくるのは、雌羊の澄んだ声の木霊だけです。
「baa…(ランマ…)」
 項垂れた顔から小さく零れた名前は、生い茂る草に寂しく跳ね返ります。
 いつも一緒に過ごしたこの場所は大好きだったはずなのに、今いてもちっとも嬉しくありません。なんだか殺風景で、知らない場所のように思えます。
 試しに草を食べてみました。でも、やっぱりちっともおいしくありません。それどころか、味気なくて悲しくなってきました。
 ポタリ、ポタリ…
 ああ、ほら。また大粒の涙が出てきてしまいました。
 アカネは、ランマに会ってから随分と泣き虫になってしまったようです。





 ガサガサ…

(!!)

 諦めて、もう帰ろうか。そう思い掛けていた時でした。
 すぐ後ろの茂みがガサガサと揺れています。
「baa!(ランマ!)」
 アカネは初めて逢った時のことを思い出していました。迷子になって泣いていた時、ランマが茂みから出てきました。もしかしたら、今回も…。そんな期待を膨らませ、アカネは茂みに駆け寄りました。

 ガサッ


「!!」


 アカネは言葉を失ってしまいました。


「gruuu…」


 茂みから出てきたのは、鋭くいやらしい眼をした狼だったのです。

 ご馳走を捕らえた両眼は、嘗めまわすようにアカネを繁々と見つめています。そして、鋭い牙を見せる大きな口から長い舌をにょろりと出すと、舌なめずりをしました。
「b…a…(あ…、あ…)」
 あまりの恐ろしさに声にもなりません。
 狼はゆっくりゆっくりとアカネとの距離を縮めてきます。
 アカネは戦慄が走る体を必死に動かし、絡まりそうな足で一歩一歩後退りすることしかできません。

 ドンッ
(あっ!!)

 逃げ道を求めていた足が木にぶつかってしました。もう後がありません。
 怯える瞳は魔術にでも掛かったように、獰猛で飢えた眼から一寸も外すことができません。
 狼は子羊の恐怖に駆られた様子を楽しむように、ニヤリと笑いました。





(やだっっ!助けてっっ!ランマ!!)

 鋭利な牙で食い千切られる痛みを覚悟するかのようにアカネがぎゅっと目を瞑った刹那、



 ドシンッ



(?!)

 震える耳に届いてきたのは、歯を食い縛りぐっと身構えた体に襲い掛かる狼の咆哮でもなければ、自分の悲鳴でもありませんでした。
 それは、何かが当たった鈍い音でした。
 アカネがこわごわ目を開けてみると、そこには息を切らし、狼に体当たりしたランマの姿がありました。

「baa〜!(ランマっ!)」

「baa〜!(大丈夫か!アカネ!)」

「gruuu〜」
 不意打ちを喰らった狼はすでに態勢を立て直し、二匹をねめつけています。
「baa!(アカネ、下がってろ!)」
 ランマはアカネを庇うように前に立ち塞がりました。
 狼は余裕たっぷりの表情を見せ、残忍な笑いを浮かべています。獲物が増え、喜んでいるのです。

「baa〜!(アカネには指一本触れさせないからなっ!)」

 ランマの息巻く鳴き声が聞こえたと同時に、狼はランマへ飛び掛ってきました。

「baa〜〜〜〜!!(きゃーーーーーっっっ!!)」

 ビュッ、ビシッ

「baa…!(ぐはっ…!)」
 ランマの右肩には一筋の赤い線が入っていました。深手にはならなかったものの、今度やられたら、確実に仕留められてしまいます。
 それでも、彼は怯むことはありませんでした。


「baa〜〜〜!!(俺はぜってーに…、アカネを守るんだーーーーっ!!)」


 先に向かって行ったのはランマのほうでした。
 ドンッ、ビュッ!ガッ!
 狼はランマの首筋を狙って噛み付いてきます。ランマは必死にその鋭い牙から逃れようとしますが、相手は狼です。スピードも力も全然違います。敵うはずもありません。
 弱肉強食は自然界の掟。
 ランマの体はどんどん傷が増えていき、きれいな白い毛は赤く染まっていきます。
「baa〜〜〜!!(うわぁーーーっ!)」
「baa〜〜〜!!(ランマーーーーっっ!!)」
 ついに狼の牙がランマの前脚を捕らえ、ランマを押さえ込んでしまいました。
「baa…!(くっ…!)」
 ランマはぎりっと狼を睨むと、渾身の力を振り絞って蹴り飛ばそうとしますが、体中のあちこちに噛み傷や引っ掻き傷があるぼろぼろの体ではどう足掻いても無駄です。
「baa〜! baa〜!(お願いっっ!!やめてーっ!)」
 アカネはとても見ていられませんでした。このままではランマは狼の餌食になってしまいます。ランマが無残に食い殺されていく姿が脳裏に走り、アカネの全身から一気に血の気が引いていきました。
「gruuu〜」
 狼はぞくっとするような薄気味の悪い笑いをアカネに送ると、ランマの方へ向き直りました。
 お遊びはここまで。じわりじわりといたぶり楽しんでいた狼は、これで止めだというように肉に餓えた野獣の口を大きく開けました。



 ドンッ



「baa〜!(アカネっ!)」

 小さな体が、狼の体を押し倒しました。
 こんなことをしても十秒ともたないかもしれません。けれども、少しでもランマを救いたい一心で、無我夢中で突っ込んでいったのです。
「gruuu…」
 狼にしてみたらアカネの突進など、痛くも痒くありません。自ら突っ込んできたアカネに標的を移しました。
「baa〜!(アカネっ!逃げろーーーっ!)」
「baa〜!(早く!ランマ、逃げてっ!)」
 自分が囮になって、その隙にランマに逃げてもらおうと考えたのです。
「baa〜! baa〜!(ばっかやろうっっ!お前一人置いて行けるわけねーだろっ!)」
「baa〜!(いいからっ!早く逃げてっ!)」
「gruuu…」
 低い唸り声がしました。



「baa〜〜〜〜〜〜〜〜!!!(やめろーーーーーーっっっ!!!)」



 ランマの悲痛な叫びが森中に響いたその瞬間、



 ズキューンッ



 バサッバサッバサッバサッ

 森に銃声が鳴り響き、鳥たちが一斉に大空へと羽ばたきました。
 どうやら猟銃を持った人間たちがすぐ近くまで来ているようです。

 タタッ、タタッ

 捕獲を恐れた狼は二匹の獲物のことは諦め、森の奥へと逃げていきました。




あぁ、今回はいっぱいアカネちゃん泣いちゃってます〜。ランマくんがいなくて寂しくて。そしてランマくんだと思って駆け寄るととっても恐いオオカミ。かよわい小羊のアカネちゃんはなす術もなくただただ怯えてしまってる〜(>_<) でもどんな相手だろうと必死に守ろうとするランマくん。危機一髪だったけど、いっぱいケガもしちゃったね・・・(涙

〓CLOSE〓