【深紅のハート】
   *このお話にはエピソードがあります。2人の初めての対面!→ 『Sniper & Thief』

novel nya   illust kokemomo 

 

 ヴァレンタインを目前に控えたある日、その依頼は来た。



 依頼者は高校生ぐらいの女の子。
 お母さんの形見の宝石を取り返して欲しいということだった。
 昔、結婚を反対されたお父さんがお母さんに唯一プレゼントできたものだという。
 奪っていったのはお父さんの親戚だと名乗る男の人で名前しかわからない。
 その男は
「これはお前のような小娘が持っているようなものじゃない。」
そう言って無理やり持っていったらしい。
「酷い人がいるものね。分かったわ、あたしがその宝石、盗り返してあげる。」
 仕事の依頼を仲介している姉から話を聞いてあたしは二つ返事で引き受けた。





 彼は一見小柄な老人だった。身なりからするとかなりの金持ちのようだ。
 しかし彼は、供の者も付けず周りの目を盗むようにこっそりとやってきた。
 彼の依頼はこうだった。
「孫を、息子の忘れ形見を探し出して欲しい。」
と。
 手掛りはその娘の名前と昔、息子がその母親に与えたハート型のルビーを持っているという事。
「金に糸目は付けない。どうか頼む。」
そう言って老人は去って行った。

 俺は情報屋に連絡を取った。

「ふふっ、面白い事もあるもんだわ。」
 情報屋は意味深な事を言う。
「なんかあるのか?」
「まあね。どうする?ちょっと高いわよ?」
「くだらねえ事じゃないだろうな?」
「あたしの情報に無駄な事が今まであって?」
 そうだった。こいつの情報はどうしてここまでって思うくらい細かくて正確だった。
 ため息と共に俺は金を払った。





 とあるバーのカウンターにその男はいた。
「隣、よろしいかしら?」
「もちろん歓迎するよ。」
 あたしはその男の隣に座りカクテルを注文する。
 男は薄笑いを浮かべながら舐めるようにあたしを見る。
 ああ嫌だ。仕事じゃなかったら絶対近くになんて寄らないわ。
 あたしは悪寒をこらえると、男と目を合わせにっこりと微笑んだ。

 さ、ここからが勝負よ。





 情報屋は、俺の欲しい情報全てを持っていた。
 もともと仕事の速い奴だが、今回は誂えたように予め持っていやがった。
 まあ、仕事の関係でたまたまなのだろうが相手は女子高生。
 こりゃなんか裏がありそうだ。
 絶対あの女、俺の知らない情報まだ持ってやがる。

 とにかく、この女子高生に会って見ねえとな。





 この男、意外とおしゃべり。
 伯父が財閥の会長だとか、伯父の息子が亡くなったから遺産は自分のものだとか。
 そして、あの宝石の事も・・・・・。
「わあ、そんな素敵な宝石ぜひ見てみたいわぁv」
 あたしは持てる限りの愛想と色気を総動員して男に甘え声で擦り寄る。
 うぅ、吐き気がする。でもそんな事言ってられない。
 おかげでこのスケベ、見事に乗ってきた。
「君にプレゼントしようか?」
 え?ラッキー。でも同時に嫌な予感。
「ただし、僕の愛人になってくれたらね。」
 やっぱりそうきたか。さて、どう切り抜けよう。
「う〜ん。どうしようかなぁ。」
 もったいぶってちょっとひいて見せる。
「宝石見せてもらえるだけでいいんだけどなあ。」
「そんな事言わずにさぁ。」
 男はあたしの腰に手を回す。
 振り払いたいのをグッと堪え
「あなたいい人そうだけど、愛人がばれて奥さんとトラブルになるの嫌だわ。」
「それなら大丈夫。僕は独身だよ。」
「あら、もったいない。あなたほどの人が。」
 思ったことと正反対の事を言う。
「だから、ね?」
 ちょっと俯いて考えるふりをした後小さな声で答える。
「・・・・あなたの家へ連れていって。それで宝石を見せてくれたら考える・・・・・。」
「じゃ、今から行こう。」
 よし、引っかかった。下見をして今日はおしまい。





 その少女は今時の女子高生にしては控えめな娘だった。
 それでいて明るく、どこか人をほっとさせる雰囲気を持っていた。
 亡くなった母親もこんな感じの女性だったのだろう。
 当時依頼者がもっと相手の人柄を知ろうとしていれば、この娘の両親は結婚できたかもしれない。
「君を探している人がいる。」
 俺の言葉に一瞬警戒心を見せる。
「どんな人なんですか?」
「君の、おじいさんだ。」
「え?何故?」
 ちょっと驚いたようだった。
「君のお父さんが亡くなった事は知っているかい?」
「いいえ。」
 残念そうに首を横に振る。
「君のお父さんは結婚をしないまま亡くなった。それで君のおじいさんは君に会って過去を謝りたいと言うんだ。」
「私も会ってみたいです。でも、謝罪はいりません。私も母も幸せでしたから。」
「で、君は形見のハート型のルビーを持っているかい?それが孫の証だと言うんだ。」
 少女は悲しそうに目を伏せた。
「どうした?」
「ありません。父の親戚と言う男の人に持っていかれてしまいました。」
「そりゃ、困ったな。」
「でも・・・・・。」
「でも?」
 言いにくそうに彼女は言った。
「ある人に頼んであるから・・・・・。大事な形見だから、取り返してって。」
「取り返す?」
 少女が小さく頷くのを見ながら一人の女を思い浮かべていた。
 あの女怪盗、あかね。
「いつ返って来るか分かるか?」
「今晩メールがくるの。」
「じゃ、その日におじいさんに会うようにしよう。明日その日を教えてくれ。」
「はい。」
 俺は少女と別れた。





 案内されたのは豪華なマンションの一室。
 30階建ての建物の最上階ですばらしい展望。これじゃ窓からは難しいわね。
 20畳ほどの広いリビング。家具も調度品も全て一流の物ばかり。
 それでいて全然悪趣味じゃない。ううんむしろ落ち着いたいい趣味のもの。
 こんな男でも家柄はいいだけの事はある。
 と、関心している場合じゃない。仕事仕事・・・・・。
 部屋の間取りは事前の調査で分かっている。問題は例ものが何所に仕舞われていてどんなセキュリティをかけられているかと言う事。
「ボーっと立ってないで、そこに座って。」
 そう言いながら彼は小さな金庫をサイドボードから取り出した。
 え?まさか・・・・。
 彼が金庫の数字を合わせるのをボタンに仕込んだカメラで撮影する。
 信じられないくらい安易な仕舞われ方をした深紅のハートはその姿を見せてくれた。
「これが・・・・・。凄い。」
 驚いて見せるあたしに
「そうだろう。」
と、得意げに答える。
「でも、こんな小さな金庫で大丈夫なの?」
 もしかしたら何かあるかも、と探りを入れる。
「このマンション自体のセキュリティがしっかりしてるからね。」
 暢気なものね。そんなものどうとでもなるのよ。
「これをあげるから、ね。」
 このスケベ!!もう絡んできたわ。
「あ、あたし凄いもの見て興奮して喉渇いちゃったなぁ。」
「ちょっと待ってて。」
 少し残念そうに席を立ちワインを用意してくれた。
 隙を付いて聞き目の弱いけど即効性の睡眠薬を入れる。
「あ・・・れ?なんか体が揺れるなあ。」
「きっと酔いがまわったのよ。今夜はもうお休みになったほうがいいわ。」
「でも、せっかく君と・・・・。」
「また、会いましょう。」
「僕はいつも金曜日にあの店にいるから。」
「じゃ、今度の金曜日に行くわ。」
「絶対だよ。」
「ええ、おやすみなさい。」
 2度と行かないわよ。次に会うのはアレを頂く時よ。
 私はマンションを後にした。





 翌日俺は少女に会った。
 彼女が貰ったメールによると宝石の引渡しは2月14日の正午に中央公園の噴水前だと言う。
 方法は不明。
 俺は12時30分に待ち合わせるよう老人に連絡を取った。
 念のため俺は正午前から彼女の周辺を張り込む事にした。





 2月14日 午前11時。
 あたしは例のマンションのエントランスにいた。
 若い男の宅配業者に変装し、深紅のバラの花束を持って。
 あかねからの贈り物だと伝えるとあっさりマンションの中に入る事が出来た。
 ドアを開け、花束に添えたカードを読んで鼻の下を伸ばしている男に催涙スプレーをかける。
 後は例の金庫から宝石を失敬するだけ。
 盗難防止はね、建物だけに頼ってちゃ駄目なのよ。
 玄関先で眠りこけている彼に投げキッスをしてあたしは去った。





 2月14日正午。
 一人の幼稚園児ぐらいの男の子が少女に近づいた。
 その子は少女に紙袋を渡すと元気に駈けて行った。
 俺は少女のそばに寄り中身を確認すると子供を追った。
 母親と一緒のその子に紙袋の事を聞くと
「グルグルしそうな凄い眼鏡をかけた女の人に頼まれた。」
と答えた。
「髪の長さは?」
「背中の真ん中ぐらい。」
 周囲を見回したがそれらしい人影はいない。
 多分変装をしたあかねなのだろうと思いながら俺は噴水へと戻った。

 30分後老人が到着した。
 彼は少女が息子の忘れ形見である事を確認すると涙を流し、彼女の母親への仕打ちを詫びていた。
 俺はちょっとおせっかいかとも思ったが今後の事もあるので今回の宝石絡みの騒動を老人に話した。
「そうか。仕様のない奴じゃ。わしの方で何とかしよう。」
 老人が少女から宝石を奪った者に心当たりがあるようだった。
 これで俺の仕事は終わりなので老人から謝礼の小切手を受け取ると二人に別れを告げた。





 驚いた。あの探偵さんが今回の依頼者と一緒にいるんだもの。
 へえ、あんな優しい顔をするんだ。『心優しい探偵さん』っていう噂は伊達じゃないのね。
 あたしと対峙した時とは別人みたい。
 暫く二人を見ていたが仕事の時間が近かったのであたしは公園を後にした。
 そう、あたしはちゃんと普通の仕事を持っている。それはスポーツジムのインストラクター。
 怪盗するのには運動能力が欠かせないからこの仕事は一石二鳥。しかもあたしマシントレーニングもしてるから腕力にも自身がある。

 夜、珍しくお姉ちゃんがあたしをバーへと誘った。
「へえ、なかなかいいお店ね。」
と関心していると見覚えのある姿。
 しかもお姉ちゃんそっちへ向かっている?





 夜、一人仕事が完了した祝杯を挙げに馴染みのバーへ行く。
 カウンターに座っていると
「隣、いい?」
と聞き覚えのある声。
「勝手にしな。」
と相手を見ればやっぱり情報屋。
「別に今日は頼み事なんかねえぞ。」
「あら、あたしも今日はプライベートよ。妹と一緒なの。」
 へえこいつ妹がいるんだ、と情報屋の隣を見て驚く。
「おめえ、あかね!」
「お姉ちゃん、探偵さんと知り合いなの?」
「仕事柄、ね。ところで乱馬君、今回あかねのおかげでうまくいったんでしょ?だからここあんたの奢りね。分かってるのよ、謝礼一杯貰ったんでしょ?」
「たまたま仕事がかぶっただけだろ?何で俺が。」
「いいのかなぁ、そんな事言って。」
 しまった、こいつに逆らうと後が怖い。
「わかったよ。」
「じゃ、お互い仕事の成功を祝して乾杯ね。」
 心の中で情報屋に舌打ちしながらも、あかねとの再会にどこか喜んでいる自分がいる。


 ・・・・・・本当に縁があったな。





Nyaサマからから頂きました。前回の「Sniper & Thief」からの続編です!続きをさりげなく(?)お願いしてました〜やった〜!バレンタインの日に合わせてハートのルビーが乱馬くんとあかねちゃんを引き合わせてくれましたv 2人がそれぞれの仕事を進めて行くに従って少しずつ近付いていく。そんな様子にドキドキしながらも、変装の達人のあかねちゃんが上手くすり抜けていましたよね。でも2人に共通の人物がなびきだったとは・・・。彼女にはぴったりのハマり役の情報屋に笑ってしまいそうになりましたー(^^)
私のおねだりに応えて書いてくださって大喜びですっ!お話の雰囲気に近付けるようにイメージイラ頑張ってみました(><)ドキドキ
Nyaサマ、ありがとうございました!


*このお話には続きがあります。次の仕事は?→ 『星に願いを』

〓CLOSE〓