【せっけんの香り】
 

 

 

昼間、天気がよかったからか、三日月が昇っている夜の空は星がよく見えて綺麗だった。
空が透き通ったようにみえるのも、この季節のいいところかも知れない。
「ふうーっ、涼しいー。」
あかねは窓を開けて入ってくる風にあたりながら、髪をタオルで拭いていた。タオルを
髪全体を覆うように巻き付け、明日の準備をする。
「えーっと、数学でしょ、日本史でしょ、英語っと・・・、あっ!
宿題があったんだっけ!次は私が訳す番だったじゃない。ふぅ、忘れるとこだったわ。」
机に向かって座り、早速教科書をひろげる。
シャーペンをカチカチ鳴らしながら、あかねは辞書を片手に英語の文章を次々と訳していく。
「・・・ん?やだ、ノートが終わっちゃった。」
引き出しを開けて、新しいノートを探してみた。・・・が、1冊もない。
「ん〜、なびきお姉ちゃんにもらうのもなんだか条件つけられそうだし・・・」
考えながらチラッと時計を見ると、まだ9時を回ったところ。
「・・・いいか!まだ遅くないし、コンビニにでも買いに行ってこよっと!」

まだパジャマには着替えてなかったので、髪だけもう1度タオルで拭いて整える。
財布を用意して一階へ降りて行くと、居間にいるかすみに声をかけた。
「かすみお姉ちゃん、ちょっとコンビニまでノート買いに行ってくるわ。ついでに
何か買ってこようか?」
繕い物の手を止めて、かすみはちょっと考える。
「そうねえ・・・。じゃあ悪いんだけど、牛乳をお願いしようかしら。」
そばでテレビを見ていたなびきも注文してきた。
「私もお願い。いつも読んでる雑誌が発売してると思うし。あと果汁100%の
ジュースも買ってきてくれる?」
「牛乳と、雑誌とジュースね。わかったわ。」
「はい、これでノートも買いなさいね。」
そう言って、かすみは財布からお金を取り出す。
「暗いんだから、乱馬くんと一緒に行ったら?」
なびきも姉なりに少しは心配するようだ。
「あら、乱馬くんなら今お風呂に入ってるんじゃないかしら?」
「大丈夫よ。まだ9時過ぎだし。駅前は明るいから心配しないで。」
明るくそう言うと、あかねは財布をスカートのポケットに入れて出掛けて行った。
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「やっぱり星が綺麗に見えるなあ。でも小さい頃に比べたら少し減ったかも・・・。」
夜空を見上げながら、のんびりと駅の方へ歩いて行く。お風呂上がりだし、身体に
触れる風が心地いい。道を曲がると親子連れが手をつないで歩いていた。
お父さんに手を引かれる小さな子供。洗面器を持っている所を見ると、銭湯帰りのようだ。
「・・・私も小さい頃、お風呂が壊れた時にお父さんと銭湯へ行った事あるわね。」
父と手をつなぎ、見上げた星空。あの時は星がもっとたくさんあったと思う。
お父さんからも、自分からもセッケンの香りがしてとても気持ちがよかった。
姉達はもう父とは一緒に入らなかったけど、あかねはまだ恥ずかしがる年頃を迎えて
なかったので、父と入るお風呂が大好きだった。本当は母とも入りたかったんだけど・・・。

駅まで来ると、明るくて人通りもまだ多かった。
コンビニに入ると少し眩しく感じる。
「えーっと、ノートはこれでしょ?牛乳と雑誌とジュース・・・っと。」
ずらりと並んだドリンクコーナーを見て、ふと思う。
・・・乱馬は今ごろお風呂を上がったところかな?ついでだから、スポーツドリンクでも
買っていってあげようっと。
自分の分も取り、レジへ持って行く。かすみからもらったお金で支払いを済ませ、
コンビニから出た。

「・・・え?乱馬??」

目の前に、自分の許嫁が息を切らせて立っていた。
なんで?家でお風呂に入ってたんじゃなかったっけ??
「こんなとこでなにやってんの?」
「あのな〜・・・、た、ただのジョギングで通りかかっただけでい!」
ぜいぜい、と肩を揺らしながらプイッとそっぽ向いた。

???お風呂上がりにジョギング???

「お前なあ、ノートなんて夕方にでも買っとけよ!こんな夜遅くにフラフラと
出歩いてんじゃねえ!バカ!」

・・・なんだ、そういう事か。心配してるならしてると言えばいいものを。
はあ、素直じゃないんだから、もう。
「汗かいたみたいね。スポーツドリンク買ったんだけど、飲む?」
乱馬のために買っておいたドリンクを袋からさっそく取り出した。
「へっ!・・・しょうがねえからもらってやる。」
人に物をもらっておきながら、なんでイバるのよ・・・。
受け取ると、すぐにゴクゴク飲み出した。よっぽど急いで走って来てくれたのかな?
「ほら、もう買い物済んだんだろ。家に帰るぞ。」
飲み干したペットボトルをゴミ箱に捨てて、スタスタ歩き出した。
「はいはい、わかったわよ。」
軽く言いながらも、あかねは少し笑顔になっていた・・・。



家への帰り道。来た時とは違って、乱馬と2人。
明るい駅から離れると、やっぱり星空は綺麗に見える。
柔らかい風が2人に向かって吹いてきた。肌を優しくなぞるよう。

・・・あ、乱馬からセッケンのいい香りがする・・・。

優しい風は前を歩いている乱馬の洗いたての髪を静かになびかせている。
なんだか銭湯帰りみたいで、懐かしいなあ・・・。
ちょっと乱馬に近付いてみた。

また背がのびたのかな?
横に並んでみる。見上げないと乱馬の顔までは見えない。
昔、見上げて見ていたお父さんとは、ちょっと違うけど・・・。


ギシッ!


あ、固まった。

「な、なんだよ?」
さりげなく繋いでみた手に、乱馬はものすごく照れてるみたいだった。
「・・・なんとなく・・・。」
それ以上はなんだか言えず、無言で歩く。
乱馬も振りほどこうなんてしないで、優しく繋いでくれていた。

大きな手だね。
あたたかいし・・・。
銭湯帰りの小さな私も、お父さんと手をつないだ時はとても心が温かくなったわ。

「ねえ、乱馬。星が綺麗に見えるわね。」
「・・・・・うん。」



お父さんとの帰り道。
今の私には、素直じゃないけど、お父さんと同じくらい、
・・・ううん、お父さん以上に私の事を想ってくれている許嫁が
一緒に帰ってくれるのね・・・。




「ね、乱馬・・・。英語の宿題もう終わった?」
「・・・へ?何それ?」
「・・・帰ってから勉強ね。」




end

「infinity」の蘭堂サマにお送りさせて頂きました。投稿させて頂いた後、蘭堂さんがステキな挿絵を描いて下さって大喜びの私vコンビニまで迎えに来てくれた乱馬くん、綺麗な星空の下で手をつないで帰る2人。この2枚の内、1枚目の方は蘭堂さんのサイト内にて隠されていたのですが、とっても残念な事に「infinity」は閉鎖となってしまいましたので、2枚ともこちらで掲載させて頂くこととなりました。つかずはなれずの2人。挿絵からもそんな雰囲気があふれていて感激ですーv

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