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あ〜・・・、なんか疲れが落ちていくみたいだな・・・
たっぷりと湯のはったお風呂にのんびりと浸り、心身ともに疲れを癒す。
天道家のお風呂は広いので、乱馬は湯舟の中で思いっきり体をのばしていた。
く〜、こう寒いと動きが鈍くなるから体がなまりやすいかもなあ。
まあ、毎日何かと騒ぎが起きるからその心配もないけど。
・・・ にしても、シャンプー達といい、八宝斎のジジイといい、あいつらの
おかげでどんなに迷惑かけられてるやら・・・。
今日も散々な目にあったものの、それはいつもの事なのであまり気にはしない。
あかねに張り倒されるのも、まあ、よくある事だし・・・。
・・・にしても、あのヤキモチ焼き・・・。
シャンプー達が勝手に絡んできてるだけなのにその度に怒ってんじゃねーよ。
殴る力も手加減しねーしよー・・・。
温かい湯舟の中、許嫁を思い浮かべてはブツブツ文句ばかり出てくる。
左頬に手を当てると、殴られた感触が鮮明に蘇ってきた。
・・・なんだか痛みも少し残っているように感じる。
「乱馬のバカーッ!!」
そんなセリフはよく聞くけど、その前に俺の話ぐらい聞けってんだ。
いつも頭ごなしに怒ってくるんだもんなあ。ったく・・・。
ま、明日になればまたあいつの機嫌も治ってるだろうけど。
・・・・・・はぁ。
深くため息をついて、乱馬は沈むようにちゃぽんと肩までお湯につかった。
窓は閉め切っているので、浴室内では湯気が立ちこめている。手をのばせば壁に
つきそうだが、まるで霧に囲まれているようで山篭りでの温泉を思い出す。
外で吹いているであろう冷たい風が、浴室の窓をガタガタと鳴らしては
冬の寒さを感じさせていた。
しばらく目を閉じてその風の音のみを聞き、湯舟の中で温まっていた・・・。
う〜・・・、なんか頭がボーッとしてきたなあ。
少し長風呂になってるかもな・・・。
体の芯もあったまったようでポカポカしている。
そして目を開けると湯気のせいでもあるが、視界がぼやけているようだ。
このままじゃのぼせるな・・・。そろそろ出るか。
ザバーッと湯舟から出て、蛇口をキュッとひねる。
冷たいシャワーが一気にでてきて、乱馬に降り注いできた。
ほてった体にはとても気持ちがよく、体から吹き出る汗も一緒に流れていく。
・・・だが鏡を見てみると、そこには変身した少女が立っていた。
もう今となっては見なれた姿、別に驚きもしない事。
始めの内は情けない気分でいっぱいだったが、女の姿でも得した時も多かった。
・・・とはいっても、いつまでもこのままじゃダメだよなあ。
シャワーの温度を上げてお湯にする。
すると華奢な体が成長していくかのように、引き締まった男の姿へと戻っていった。
浴室から出ると、バスタオルで体の汗を拭いていく。
冬の夜はとても寒いが、風呂上がりの体はほこほこしていて暑いぐらいだった。
ちょっと湯気が体から出てるかも。
乱馬はバスタオルで髪をわしゃわしゃっとして、パジャマを着ていく。
・・・なんかノドが乾いたな。牛乳でも飲むか?
時間はもう11時を過ぎていた。
天道家は早寝なので、家族はもうそれぞれの部屋で寝静まっている時間。
家の中はもう真っ暗になっており、居間の時計の音が聞こえてくるくらいに
シーンとしている・・・。
廊下を歩くたびにギシギシとなり、その音が大きく聞こえた。
台所の近くまで来ると、何やら人の気配を感じる。
ん・・・?
台所に明かりがついてる??
そっと覗くと、1人の少女の姿があった。
パジャマ姿で温かそうなスリッパをはいている。
肩にはチェックのストールをはおって小鍋で何かを沸かしているようだった。
ちょっと考えてから乱馬は気配を消して、その少女のそばまでそ〜っと
近付いていく。
「・・・何やってんだ?」
「わっ!」
あかねはビクッとして、鍋をひっくり返しそうになった。
クルっと振り向き乱馬だとわかると、安心したようにホーッと緊張を解いていく。
「もう!驚かさないでよっ。あぶないじゃない!」
「臆病もんだな〜。」
怖がりのクセに台所で1人でいる方が悪いんだよな。
あかねの弱点を知っておきながら、つい驚かせたくなってしまう。
ぷうっと膨れて「何よっ!」とスネているあかねを横目に、持っていた物を
覗き込むと、小鍋を使って何かを煮立たせているようだった。
「恐いんなら部屋でおとなしく寝てろよ。ったく、こんな時間に何してるんだ?」
「ん〜、なんだか体が冷えちゃって・・・。ロイヤルミルクティーを作ってるの。」
なるほど、鍋からはミルクと紅茶の甘い香がしてくる。
「失敗してまずいもん作るなよ。」
「もう!紅茶ぐらい作れるもんっ。」
ぷりぷり怒りながら、小鍋のミルクティーに目を移すあかね。
ちょっとからかうとすぐに乗ってくるんだもんな。面白いやつ。
それに昼間のヤキモチも、もう治ってるみたいだしな・・・。
小鍋を見ているあかねは、失敗しないようにと紅茶を煮立たせながら
どこか楽しげな表情もしている。
ほっとしながらあかねから離れ、棚からコップを取り出し冷蔵庫を開けた。
・・・あれ?牛乳がないぞ?
周りを見渡して目で探してみる。
お、なんだ。ここにあるんじゃねーか。
あかねのそばに置いてあった牛乳パックを持ってみたが、・・・ん?軽い?
「あ、もうないよ。全部使っちゃった。」
「へ?全部って・・・、お前ミルクティー作るのにどれだけ使ってるんだ?」
「そんなに使ってないわよ。パックに半分くらいしか入ってなかったし。」
・・・それでも、使いすぎじゃねーの?
小鍋にはミルクティーがなみなみと入っている。
まったく、1人で何杯飲むつもりなんだよ。
牛乳は諦めて、他に飲み物がないか冷蔵庫の中を物色してみた。
う〜、ビールぐらいしかねーなあ。
風呂上がりにビール飲むのもなんだかなあ。親父達じゃあるまいし・・・。
「何か飲みたいの?じゃあ乱馬もこれ飲む??」
ほこほこ湯気を立てているミルクティー。なんか熱そうじゃねえか?
「風呂上がりで体が熱いんだよ。冷たいのが飲みてえの。」
「もう!せっかくあったまったのに、冷たいの飲んじゃ体が冷えちゃうじゃない。
部屋に戻ってもきっと寒いんだから、コレ飲むと気持ちまであったまるわよ?」
話ながら俺のそばまで歩いてきた。
近くに来ると、あかねはじーっと俺を見上げながら少しすねた顔をしている。
・・・トクン・・・
普段見せないこの表情。少し甘えたしぐさもあって、自分の中に揺れる心の内を感じた。
・・・こいつ、普段は怒った顔ばかり見せるクセに・・・。
なんの警戒心もなく、俺のすぐ傍にいるあかね。
・・・何も意識をしていないのだろうか?
胸の奥が熱くなる。乱馬は平常心を装おうのに必死なのに、あかねの様子は普段とは
変わらずに見上げてきている。
こんな夜中に2人きりでいるのに。
お互いパジャマ姿で、周りにお邪魔虫達もいないのに。
こいつはなんでそんな風に無防備なんだ。
もしかして、俺の事男として見ていないのかよ・・・?
何も言わずただ見つめ返す俺に、あかねは不思議そうな顔をしている。
手を唇に持っていき、何かを考えているしぐさをしていた。
と思ったら、ふと右手を伸ばしてきた。
え?
左頬にあかねの温かい右手が感じられる。
な、何?
聞こうと思っても、上手く声がでない。
あかねは切なそうな表情で、俺を見て・・・
「ごめんね、まだ痛い?」
は?
優しく左頬に手を添えながら、なんだか申し訳なさそうな顔をしている。
「・・・私、思いっきり殴ってたね。痛かった?」
・・・なんだ。その事か。
なんか体から力が抜けてくる気がした。
「・・・もう痛くなんかねーよ。」
「うそ!だって、なんか不機嫌なんだもん。怒ってるんでしょ?」
心配気な顔をして聞いてくるあかねに、さっきまであった緊張もすっかり
どこかへ行ってしまった。
・・・と同時に俺を見上げるあかねが、すぐ近くにいる事により一層意識する。
いつでも物事をまっすぐに見る彼女の瞳は、俺を思いっきり殴った事に対して
申し訳なさを感じているのか、少し潤んでいるように見えた。
小さな桜色した唇は、キュッと噛み締められていて次の言葉を待っている。
こいつの肌って、こんなに白いんだな・・・。
間近で見る事なんてめったにないから、あまり意識したことなかったけど・・・。
寒い冬にも、あかねのほっぺたは冷たい空気にさらされてはいるが、
ほんのりと赤みをさし、寒さに負けまいとしているようだった。
「ら、乱馬っ・・・?」
あかねが俺の名前を呼んだ。
呼ばれて気付く。
俺はあかねのほっぺたを両手で包み込んでいる・・・。
触れてみて分かる。
あかねが「女」だってことを。
俺も半分女だけど、そんなんじゃない。
やわらかくて、守りたくて・・・。
それに思ったよりもあかねの頬は冷たくて驚いた。
温めてやりたい衝動にかられて、優しく、大切に包み込む。
その間、あかねは黙ったまま俺を見ていた。
抵抗するしぐさもないけど、右手は俺の左頬に添えられたままで
ただただおとなしく、俺を見上げていた。
台所は静かで、壁に掛けられている時計の音だけが、カッチカッチと
響いている気がする。
このままあかねを見ていたい。
触れていたい・・・。
・・・けど、あかねはどこか不安げな表情をしている・・・?
むにっ。
「・・・あかね、へんな顔になってるぞ。」
包み込んでいた両手で軽くほっぺをつまんでやった。
「っっっっっ!もうっ、なによ!あんたがしてるんでしょっっ!
やっぱり怒ってるんじゃない〜!!」
両手の中のあかねは、顔を真っ赤にして俺につっかかってきた。
ふうっと気持ちを落着かせて、あかねから手を離す。
「別に怒ってねーよ。・・・他に飲み物ねーし、それ入れてくれ。」
他に何を言えばいいかわからず、思わずあかねの入れたミルクティーを
見ながらそう言ってしまった。
あかねは顔を赤らめながらもホッとしたようで、安心しきった笑顔に変わってる。
「・・・うん。」
左頬に添えられていたあかねの手が離れていく。
なんだかほっとしたような、少し・・・残念なような。
小鍋の方に向いたあかねを後ろからゆっくり眺めてみる。
彼女の背中はとても華奢で、抱き締めたらすっぽり腕の中に収まりそうな程
かよわくて・・・。
はぁ、・・・これはちょっとした拷問だな・・・。
学校のやつらが知ったら、「もったいない!」とか言われそうだけど。
もちろん言う気もさらさらないが、少し後悔をしている自分に気付く。
そんな俺のモヤモヤをよそにあかねは小鍋の方に真剣になっていた。
しばらくして、プクプクと小さな気泡が出てきたのを確認すると、鍋の火をとめて、
棚からマグカップを2つ取り出してくる。
テーブルにコトンと置くと、茶こしをカップの上にのせて鍋からこぼさないように
ゆっくりと注いでいった。
コポコポコポ・・・
注がれるミルクティーは辺りに甘い香を拡げていた。
その香りは乱馬の気持ちを和らいでくれる感じがする・・・。
「ハイ、冷めないうちにどうぞ。」
にっこり笑ってマグカップを差し出すあかね。
カップを受け取ると、テーブルの方にもたれかかって、おそるおそる口をつけた。
あかねも乱馬の横に並んで立ち、フウフウといいながらミルクティーを飲み始める。
・・・うん、 コクがあって、まあまあうまいかも。
ちょっと甘すぎる気もするけどな。
「はぁ、なんだかあったまるねー。」
「・・・そうだな。」
いつもはケンカばかりしているけど、こんなほのぼのした空気を味わってみるのも、
たまにはいいかも知れねーな・・・。
俺の横でおいしそうに、嬉しそうに飲んでいるあかね。
甘いのはミルクティーだけじゃないのかも・・・。
パジャマ姿で、こんな夜中に2人で飲むミルクティーは
なんだか気持ちを温かく感じさせてくれるようだった。
「ロイヤルミルクティーが作れるんだったら、料理もマシなのを作れよな。」
「もう、一言多いわね〜・・・じゃあ明日作るから食べてよ?」
「・・・・・。」
「乱馬っ!」
end
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