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『とっても優しいケーキの作り方』
本屋さんで一冊の雑誌をペラペラめくりながら、あかねはため息をついていた。
このケーキなら私にも作れるかな・・・。この前作ったカップケーキは
形も悪くて味もイマイチだったし。食べた乱馬もなぜだか苦しそうだった。
嫌々ながらも最近の乱馬は最後にはちゃんと食べてくれる。だが必ずといって
いい程体調を崩してしまっていた。あかねもワザとそんな得体の知れないものを
作っている訳ではない。いつだって愛情込めて一生懸命なのだが、それが味の方に
出ていないだけだった。
「ただいまー。」
雑誌の入った袋を片手に玄関を開ける。
・・・結局買っちゃった。でもこれぐらいならきっと上手くできるわよね。
靴を脱ぎながら、ふと周りを見てみる。・・・乱馬の靴がない。
まだシャンプー達といるんだわ。ハッキリしないんだから!
いつものように帰り道で自転車に引かれる乱馬。まとわりつくシャンプーに
加えて他の2人もやってきた。待っていても乱馬はちゃんと断らない。
そんな彼を残してゆっくり帰ってきたのだが、それでもまだ捕まっているのだろうか。
「あら、あかねちゃん、お帰りなさい。もうご飯だから着替えてらっしゃいな。」
「うん、あとで手伝うね。」
鞄と雑誌を部屋に置き、のろのろと着替えていく。窓の外はまだ明るさが続いてた。
春になり、進級しても乱馬とは相変わらずの関係が続いていくのかな・・・。
ぶっきらぼうだけど優しく感じる時もある。だけど3人の女の子達が乱馬の
周囲にまとわりついていた。いつだって素直に自分達の気持ちを乱馬に伝えている彼女達。
・・・私にはできない。ヤキモチやくのも悔しい。
それが2人の間に歯止めをかけているのかも知れないんだけど・・。
着替え終わり、階段を降りていくと玄関がガラガラと開いた。
「た、ただいま〜・・・。」
ぐったりしている乱馬。そうなる前にさっさと断って帰ってくればいいのに・・・。
「だらしないわね〜。ぼろぼろじゃない!もうご飯なんだから早く居間に行きなさい!」
優しい言葉なんてかけずそのまま台所へと姿を消すあかね。
乱馬はそんな後ろ姿を見ていたが、深いため息をつくとよろめきながら居間へと行った。
「あら?乱馬くん帰ってきたの?」
「・・・そうみたい。あ、かすみお姉ちゃん。このブリの照焼き、こっちのお皿に移すの?」
「ええ、お願いね。あとサラダもこの器に入れてね。」
どの料理もとっても美味しそう。お姉ちゃんと血が繋がっているんだもの。私にもきっと
おいしいケーキが焼けるハズよね・・・。
明日土曜日だし、学校帰ってきてからがんばってみようかな。
「あ、あかね!こっちのケーキの方がおいしそう!」
「え?どれどれ?う〜ん・・・、ちょっと難しそうじゃない?」
学校の休み時間さゆりやゆかに昨日買った雑誌を見せて、どれが作りやすいかを
相談していた。少し離れた場所で大介やひろしに絡まれる乱馬。
「うらやましいよな〜、乱馬くん。あかねはお前の為に作るんじゃねーのか?」
「ほんっと!かわいいエプロンつけてさ〜、一生懸命作ってくれるんだぜ〜?」
好き勝手な事を言いながら、彼女達を見る2人。
「うるせえっ!おまえら食った事ねえからそんな気楽な事言えるんだ。
こっちの身にもなってみやがれ!だいたい、あかねが作ったものなんかな〜・・・」
ドカドカッ!
全部言い終わる前に机がいくつか飛んできていた。
「・・・あんたね〜、全部聞こえてるのよ!」
「え〜っと、生クリームでしょ?苺でしょ?もう買い忘れないわよねー?」
ケーキの中でも初級クラスと書かれていた苺のショートケーキ。
その材料を買い終えて家路につく2人。
「お前、ほんとに作れるのかー?スポンジとか難しいんじゃねーか?」
「うるさいわね!大丈夫よ、この本わかりやすく書いてるんだもん!」
心配そうに、というよりは少し嫌そうな表情の乱馬に腹を立てながら
あかねは作る気十分ではりきっていた。
今度こそ絶対においしいって言わせてみせるんだから!
そんな事を口に出して言えないが、あかねにとってはそれが何よりも
嬉しい事だった。
チリリン。チリリン。
遠くから自転車がだんだん近付いてくる音が聞こえてきた・・・。
グシャッ!
「乱馬!偶然あるなーっ。これからピクニックでも行くよろし!」
自転車の下敷きになった乱馬に嬉しそうに抱きつくシャンプー。
「こ、こら!いいかげんに自転車で人を踏むのはやめろ!」
「ほら、お弁当も2人分用意してきたある。このシュウマイは新作あるぞ!」
乱馬が離れろ!と言うのも構わず、まとわりつくシャンプー。
あかねは怒りを抑えながら、静かに言う。
「シャンプーあんたねえ・・・、仕事はどうしたのよ!忙しいんじゃないの!?」
「店はひいばあちゃんが出掛けて臨時休業ある。
私はこれから乱馬とデートするから、あかねはもう帰るよろし!」
シャンプーはいそいそと手持ちのバスケットの中からお箸を取り出し、
シュウマイを1つ取り出した。それを乱馬に向けると、
「ほらおいしいあるぞ!乱馬、口開けるよろし。あーん!」
パクッと乱馬の口にほおりこんだ。
ブチッ!!
「ああ、そう!!せっかくいい天気なんだからピクニックでもどこへでも
行ってくれば!!!私は今から忙しいから帰るわよ!」
「ちょ、ちょっと待て!あかね!」
「あかねもああ言ってるある!乱馬、どこに出かけるあるか??」
イチャつく2人に振り向きもせず、ずんずん歩いていくあかね。
後ろから何か声が聞こえる。だけど振り返りたくない。
これ以上2人の姿を見たくない。・・・胸がしめつけられる。
早く家に帰りたい。気がつくとあかねはずっと走って帰ってきていた。
・・・どうしよう?ケーキ作る?
お昼ご飯を食べ終わって、台所で材料をぼーっと眺めていた。
結局乱馬はまだ帰ってきていない。あのままピクニックに行っちゃったのかな。
無理矢理とはいえ、お箸で乱馬に食べさせたシャンプー。思い出すとチクチクと
胸が痛い・・・。私には絶対できないもん。・・・作るのもうやめようか?
苺のショートケーキのページを眺めていると、かすみお姉ちゃんが
台所にやってきた。
「あかねちゃん、ケーキ作るの?」
「・・・わかんない。やめとこうかな・・・。」
かすみお姉ちゃんはテーブルの上にある材料を見てから、私を見る。
「準備しているのなら、がんばってみて。あかねはいつも一生懸命だから
きっと上手くできるわ。」
優しく微笑んでくれるお姉ちゃん。だけどシャンプーの料理を食べた後に
私のを食べるとその差がハッキリとわかっちゃう・・・。
無言でうつむいていると、本を覗き込みながら優しく語りかけてくれる。
「私も始めからケーキとか焼けたんじゃないもの。何度も作っていく内に
おいしくなってくるものよ。気持ちがこもっているのが大切なんだから・・・。」
気持ちなら負けてないつもりだった・・・。
・・・たとえ食べてくれなくても、一生懸命作ってみようかな。
上手く出来ないなんて、作ってみないとわからないじゃない・・・。
「や、焼けた・・・。」
見た目はかなり悪い。写真と違って少しばかりヘコんだスポンジになってしまった。
それでも指でつついてみると、弾力はある。
私にしては上出来よ!
あとは切って、間に苺を入れて、生クリームを塗って、上に苺をのせれば・・・。
よし!完璧!!なんとか苺のショートケーキに見える!!
「お父さん!おじさまーっ!ケーキ、上手く出来たわー!!」
ケーキを大切にかかえて居間に持っていく。
・・・するとそこには誰もいなかった。
縁側にはさっきまで将棋をしていた様子。お茶も温かい。
・・・どこか出掛けたのかな?
なびきお姉ちゃんは学校から帰ると着替えて遊びに行ったし、かすみお姉ちゃんは
買物に行ってるし。・・・乱馬はまだ帰ってきていない。
・・・なんだ、家に私1人だったのね・・・。
縁側に腰かけて、ケーキにナイフを入れる。ん?ちょっと固いかな?
でもちゃんと切れた。切り口も綺麗よね。中の苺もかわいい。
・・・でも食べてくれる人誰もいない。しょーがないか。自分で食べよう!
ブイブイブイ。
鳴き声が聞こえる。
「あ、Pちゃん!おかえりー!どこに行ってたの?」
Pちゃんは私を見つけると嬉しそうに走ってきた。
わっ、泥だらけ。いつも姿を消しては必ず戻ってきてくれる。
タオルで拭いてあげていつものように膝に座らせた。
もう5時近いなあ・・・。お父さん達どこいっちゃったんだろ??
Pちゃんの頭を撫でてあげながらケーキをぼんやり見ていた。
「そうだ、みんなにあげようと思ってたんだけど、先にPちゃんに食べさせてあげる!
さっき私が作ったのよ。苺のショートケーキ!上手く出来たんだから。」
そう言うと、何故かPちゃんは体を強張らせた。
あれ?どうしたのかな?
一緒に持って来ていたフォークで食べやすい大きさに切ってあげた。
「きっとおいしいわよ。Pちゃん、はい、あーんして!」
そっとPちゃんの口にケーキを入れてあげた。
・・・固まっちゃった。
Pちゃんは目を必死に見開きながら、それでも吐き出さずに口をモグモグしてくれて
いる。だけど冷や汗がすごい・・・。甘いの苦手なのかな?
「・・・こら、何食べさせてんだ・・・。」
ぼろぼろになった乱馬がなんだか怒って庭に立っていた。
え・・・、いつの間に帰ってきてたんだろ?
「何って・・・、私が作ったケーキよ・・・。ちゃんと作れたからPちゃんに
食べさせてあげただけじゃない。」
どうして怒ってるのかわからない。何か私悪い事した?だって、誰もいないんだもん。
Pちゃんにあげてもいいじゃない・・・。
何も言わず乱馬を見ていると、つかつか歩いてきて私からPちゃんを両手で取り上げた。
するとそれがキッカケかPちゃんは「ピーーーッ!」と鳴くと乱馬の両手をガブガブッと
噛みつき、離された途端あわてふためきながら走り去っていった。
・・・具合が悪かったのかな?
Pちゃんが走っていった方向をぼんやり眺めていると、乱馬は両手をさすりながら
ため息をつき私の横に腰掛けた。やっぱりなんだか怒ってる・・・。
「・・・なによ。シャンプーのおいしいお弁当食べたんでしょ?なのに
なんでそんなに機嫌悪いのよ。」
私の方が怒ってるのよ!だって、目の前でシャンプーに食べさせてもらってた
じゃない・・・。
「・・・しつこいから、食べてやっただけだ。その後また2人来てさっきまで
捲くの大変だったんだからな。」
「だから機嫌悪いの?自業自得じゃない!私は・・・、無理にケーキあげないわよ。
後でみんなにあげるんだから・・・。」
うつむきながら、そうつぶやく。本心だけどそうじゃない。
食べてほしいけど、無理矢理はやっぱり悔しいじゃない・・・。
教室での乱馬はとても嫌がっていたし、帰り道でも迷惑そうにしていた。
他の子達のように甘える事なんて出来ない。
乱馬に食べさせてあげることなんて、絶対できっこないもん・・・。
ずっと黙ったままでいると乱馬はちらっと私の方を向いて、手を伸ばしてきた。
え・・・?
乱馬の手が私の顔に触れる。そして指でそっと唇のあたりをなぞった。
!!
びっくりする私をよそに、乱馬はその指を私に見せた。
ん?生クリーム???
「・・・ずっとついてたぞ。ガキか、お前は。」
なっ!!作った時からつけたままだったんだ!
カーーーッ!
顔が赤くなるのがわかる。ずーっとつけてたのももちろん恥ずかしい。
それよりもさっきの乱馬の手の感触が残ってて・・・。
もうっ、言ってくれたら自分で拭くのに!
「ちょ、ちょっと取り忘れてただけじゃない!ほら、これで指を拭いてっ!」
真っ赤な顔のままハンカチをポケットから取り出した。
乱馬はそのハンカチを受け取ろうとはしなかった。
少し考えてから私を見て、自分の口に近付けペロッとなめてしまった。
えぇぇっ!!!
・・・っ、もう、言葉がでない。乱馬のそんなしぐさにうつむいてしまう。
ドキドキがずっと止まらない・・・!
私についてたクリームだよ?なんでなめちゃうのっ!
ちらっと顔を上げて乱馬を見ると、そっぽ向いたまま顔を赤らめていた。
恥ずかしいなら、最初からなめないでよっ!
「・・・生クリームはまあまあだな。ちゃんと出来たのか?
食ってやるから出せよ。」
「だっ、だから無理にあげたりしないって言ってるじゃない!」
「無理にじゃねーよ!俺以外に誰がお前の作ったもん食うんだよ!
ブタにやったって味がちゃんとわからねーだろ!!」
私の横にあるケーキを見る乱馬。・・・ほんとに食べてくれるの?
「普段食ってる俺にしか、ちゃんと上達してるかわからないだろ・・・。」
そうつぶやいて横を向く乱馬。・・・もしかしてPちゃんに先にあげたのに
腹をたてたのかな?
「・・・はい。またお腹壊しても知らないわよ・・・。」
恐る恐るケーキを切り分けて、乱馬に差し出した。でも乱馬は受け取ろうとしない。
・・・なによ。食べるって言ったじゃない・・・。
「やっぱり、いらないの?」
乱馬は何か言いたそうにしてる。なんだろ?
「・・・さっき、Pちゃんに両手かまれてフォーク持てねーの。だから・・・。」
私、きっと驚いた顔してる。
ううん、きっと真っ赤になってると思う。
乱馬の言いたい事わかった。・・・食べさせてあげていいの?
ちょっと緊張して手が震える。フォークで切り分けてひと口サイズにした。
それを刺して、乱馬の口へと運ぶ。
心臓の音が聞こえそう。
こんな事でドキドキするなんて、恥ずかしい。
ずっとずっと、黙ったままで何も話さない2人。周りから見たら変かな?
ひと口ずつ切っては食べさせてあげる。乱馬もちゃんと食べてくれてる・・・。
乱馬は1切れだけじゃなく、ケーキを半分も食べてくれた。
「前に食ったやつより、ちょっとはマシじゃねーの?少しずつ食えるもんに
なってるよ・・・。」
腹の立つ言葉。だけど乱馬なりに誉めてくれてるのよね。
乱馬にしかわからない。私の作ったものを根気強く食べてくれるのは
この人だけだから・・・。
たぶん、嫌がるかも知れない・・・。でも勇気を出して言ってみた。
「あの・・・、また作ってみたいから、・・・今度も食べてくれる?」
もう食わねー、俺の体調を考えろってセリフが来ると思った。
そう言われるのが恐くてずっとうつむいていた。けど、乱馬は何も言わない。
思いきってそろそろ顔を上げて、乱馬の方へちらっと見上げてみた。
私を見つめる乱馬の表情は、とても、とても、優しかった・・・。
「・・・がんばれよ。」
「あれ?乱馬くんはどうしたんだい?」
夕食の席で、お父さんが乱馬のいない事に気がついた。
「なんだか部屋でうずくまっておってねえ。全く情けない奴だ。」
おじさまは乱馬の夕食にも手をつけながら、そう言っていた。
大丈夫。今度こそはちゃんと作れる。
1人で作るんじゃないもの。乱馬が食べてくれるんだから・・・。
だからきっとがんばっていけるわ。
・・・でも、今度は薬も用意した方がいいかも知れないね・・・。
end
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