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「ほら見て!シンプルでかわいいでしょ?」
土曜日の休み時間。今日は学校もお昼まででのんびりとした雰囲気。
廊下を歩きながら、友達のさゆりに携帯のストラップを見せてもらっていた。
細い茶色の皮を三つ編みにして、その先にシルバーのサイコロ型がつながっている。
「あれ?でもこのシルバー、”D”って書いてるわよ。さゆりだから”S”じゃないの?」
あかねが不思議そうに尋ねると、さゆりはニコッと笑って言った。
「もう、自分のをつけるんじゃなくって!これは彼氏の名前じゃない。」
あ・・・、そうか。
最近、さゆりは大介とつきあい始めた。この2人は仲が良く、教室でも楽しそうに会話
してる。誰がみてもお似合いのカップルだった。
それに引き換え私は・・・。
乱馬と2人きりになることは、ほとんどない。学校では右京が来るし、登下校でも
3人娘に言い寄られてる。家では家族と一緒に過ごしているし・・・。
はぁ・・・。
無意識にため息をつくと、さゆりが覗き込んできた。
「今、乱馬くんの事考えてた?」
な、なんで分かったの??
「べ、別に!違う事考えてたっ!」
顔を赤くしながらうろたえる。
さゆりはくすくす笑いながらも「わかったわよ」って感じ。
・・・なんだか、大介とつきあってからキレイになったんじゃない?
しぐさも大人っぽくなったし、落着いた気がする。大介の「効果」かな?
ぼんやりとさゆりを見ていると、廊下の窓からフワリと風が入ってきた。
風は私達の髪を優しくなびかせる。5月の風はなんだか温かくて気持ちいい。
そんな風で踊る髪を、ゆっくりと手でかきあげる。
「・・・あかねさ、なんか雰囲気が変わったね。」
さゆりが私を見てポツリと言った。
ちょっとびっくり。そうかな?自分では分からない。
「そんな事ないよ。どこも前と変わらないわよ。」
「う〜ん、見た目とかじゃなくって・・・、なんとなくかなー?」
「何それ?」
2人して笑いながら教室へと入っていった。
教室では乱馬が大介と窓際で楽しそうにおしゃべりしていた。
どの窓も全開していて、外の空気が入ってきて快適。自然と表情も和らいでいく。
ふと大介がこちらに気が付いて手をあげる。乱馬もつられて振り向いた。
「さゆり、パンでも買ってきたのか?俺にもくれよー。腹へった〜。」
「何言ってんのよ。土曜日なんだから買うわけないでしょー。
あと1つ授業が終わるまで我慢、我慢。」
甘えてくる大介に優しく笑顔を返すさゆり。
そんな2人のやりとりにもなんだか「愛」がある感じ。
・・・いいなあ。ほんとお似合いのカップル・・・。
ぼんやりと2人を見ていると、ポンッと頭に手をのせられた。
「何ぼーっとしてんだよ?いくら土曜日だからってボケッとしすぎなんじゃねーの?」
そう言いながら乱馬は髪をくしゃくしゃにしてくる。
「もう、何するのよーっ!することがガキなんだからっっっ!」
「お子ちゃまにガキって言われても実感ねーよ。」
いたずらっ子のような表情しながら、手は私の頭においたまま。
目の前の2人とは程遠い私達。優しいムードなんてこれっぽっちもないんだから!
「おい乱馬。いくら彼女がカワイイからって、あんまりイジメてんじゃねーぞ。」
その言葉でピタっと手をとめる乱馬。
か、彼女って・・・。
「ち、違げーよ!誰が彼女なんだよっ!」
「誰が彼女なんだ?」
「・・・・・・。」
顔を赤くして手を離し、ぷいっとそっぽ向く。ハッキリ言えない優柔不断。
・・・もう、どうせ私は単なる「がさつで色気がなくてかわいくないただの許嫁」よっ。
くしゃくしゃにされた髪を手で整えて、指で軽く耳にかけた。
そんな様子を隣でさゆりがじーっと見てる。さっきと同じ視線。・・・何だろ?
ふと大介のポケットに目をやる。あっ、携帯のストラップだ。
「ね、大介、ちょっと携帯見せてよ。」
「ん?携帯?」
ポケットからごそごそ取り出して「ほら。」と渡してくれた。
受け取った携帯にはさゆりと同じ細く茶色の皮で三つ編みされてる。
そしてその先にはシルバーのサイコロでイニシャルは”S”だった。
「さゆり、愛されちゃってるのねー。大介とおそろいじゃない。」
さゆりは恥ずかしそうだけど、嬉しそうに大介を見る。
「始めは『恥ずかしいからいやだ!』って言ってつけようとしなかったけど、
ちゃんとつけてるわね。偉い偉い。」
「つけておかないと、お前宿題とか見せてくれないだろ。
女ってちゃっかりしてるよなー。」
大介は同意を求めるように乱馬に振り向く。
乱馬は関係ねーって感じで知らん顔。・・・ふんだ。
「あかねは?乱馬くんとおそろいのを持ってたりしないの?」
えっ・・・。痛いトコつかれた感じ。
そんなの・・・何もナイ・・・。
「おそろいのなんて俺が持つワケねーだろー。だいたいコイツが
そんなかわいらしいとこあると思う?」
むかっ
「・・・そういうアンタにも、そんな優しさ持ち合わせてないわよねー。」
イヤミたっぷりで言葉を返すと、負けじと乱馬も反撃。
「あ〜ぁ、こんなかわいくねー許嫁持って結構俺って苦労してるだろ?」
「私の方が苦労が多いのよっ!」
いつもこんな調子でケンカになる。
はぁ・・・、少しでもいいから大介の優しさを乱馬にも分けてやって欲しい・・・。
私達が口ゲンカをしていると、窓からサアァッと風が吹き込んできた。
窓のカーテンもくくられているけど、フワリと舞っている。
窓を背に立っていた大介や乱馬、そちらに向いていたさゆりや私にも
風はゆるやかになぞっていった。
ふと、さゆりが何かに気が付いたようだ。
そして私と乱馬を見て、くすっと笑った。
・・・?
「おそろいなんて持っていないって言ってるけど、ちゃんとあるじゃない。」
笑いながらそういうさゆりに、私達は顔を見合わせる。
「・・・何も持ってないよ?」
さゆりはあかねの髪に手をやり香りを確かめた。
「やっぱりね。一緒のシャンプーを2人で使ってるカップルなんて
そういないわよねー。」
「・・・へ?」
乱馬のおさげをくいっと引っ張って顔を近付けた。
ほんとだ。同じ香り・・・。
同じだから気が付かなかったのかな?
「・・・あんた、私の勝手に使ってたの?」
「へ?あれお前のだったの?あん中で一番マシだったから使ったけど・・・。」
「どうりで減るのが早いと思ってたら・・・。人のを使うんなら一言いいなさいよっ!」
「減るもんじゃないんだからいいじゃねーか。」
「減るもんなの!」
大介とさゆりは、そんな2人の会話を聞きながらあきれた顔していた。
「どこが仲悪いんだか・・・。なんだか見せつけられてる気分だぜ。無意識に趣味が
似てるってのも仲いい証拠だよな。」
「ほんと。言いたい事もポンポン言える間なんだもの。それだけ気が合ってるって事ね。」
「「ち・が・う!!」」
声をそろえて、同時に叫ぶ2人。
お互いを見ると、そのまま何も言えず固まってしまった。
「・・・はあ、やっぱり意思疎通なのねー。」
「俺らなんて、この2人に比べたら足下にも及ばないかもな。」
「ねえ、今日学校帰りにどこか寄って行こうか?」
大介とさゆりは放課後の事を楽しそうに話しながら、無言で固まる乱馬とあかねを
残して歩いていった。
〜〜〜もうっ!
なんだか意識しちゃって話せなくなるじゃない!
顔を真っ赤にしてうつむいていると、コツンと頭を小突かれた。
もう、何よっ!
「・・・どのぐらいするんだ?」
「は?」
「だから〜、そのシャンプーはいくらぐらいかって聞いてんの!
昨日持ってみたら軽かったしな。そろそろ買うんだろ?半分だしてやるよ!」
・・・また使うつもりなのね・・・。
まあ、自分から半分出すって言ってるし、・・・許してやるか。
「結構高いんだからねっ!それに今まで使ってた分、今日何かおごってよ。」
「お前・・・っ!はぁ〜〜。大介の言う通りだな。女ってちゃっかりしてるよ・・・。」
あきれてため息つく乱馬。
そんな姿みてなんだか笑っちゃう。
おそろいなんて物は持っていない私達。だけどこんな見えないおそろいなんて
私達らしくていいかも。
また風が窓から優しくふいてくる。
髪に手をやり、ゆっくり整える。そんなしぐさに乱馬はなんだか眩しそうに見ていた。
・・・さゆりが私をじーっと見てたのが、なんだか分かった気がする。
私がさゆりを見て思った事、同じように乱馬にも私がそう写って見えてたりしてね。
end
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