【面影】
 

 

 

「こっちの方が、写真写りいいんじゃない?」
「えー・・・、もうどれでもいーよ・・・。」

 夏の暑さがじわじわと迫ってきている6月。
日射しのピークも通り過ぎた午後のひととき。
冷たい麦茶を飲みながら、風鈴の音が涼しく感じる天道家の居間。

 ここでテーブルの上に山程写真を並べ、いろいろと手にとって見ている二人。
どの写真にも、写っているのは目の前で少々ウンザリしている彼。
今では私の義弟となっている乱馬くんその人。
そしてそのたくさんの写真を撮ったのは、もちろん高校時代から彼の写真を
撮り続けてきた私、なびき。

 今日は、少しずつ軌道に乗り始めてきた天道道場を幅広く宣伝するために
パンフレット制作をすることになった。写真はその為。
業者にすべて頼むのもいいけど、結構費用がかかるのよ。
それなら、その費用以下で私が作ってあげることになったの。
パソコンを使えば、レイアウトなんてわりと手軽にできるし、
その元データさえあれば、あとは安い印刷業者を探すだけ。
パンフの内容なんて自分の実家ですもの。
知りつくしている私の手にかかればなんて事ないわ。
人が興味を持つように仕上げるなんてお手のものだし、
写真はもちろん、すべてこの私が撮ってるってわけ。

 今まで取りだめしたものを、現像してテーブルに拡げて見比べていた。
やっぱり写真で目を惹き付けるんだから、ちゃんと厳選しないとね。
そこにある写真の彼は、今ではこの天道道場を引っ張っていくには
ふさわしい程に成長していた。
お父さんもそろそろ跡目を譲ろうと考えてる様子。
それに写真を見ただけで、実力がどれ程のものかわかりそうなものだった。
これから武道を目指す子供達や、エクササイズを目的とする女性達、
多くの人の目を惹く事間違いないわ。
だけど数十枚の中からじっくり選ぶわけだから、乱馬くんも疲れてきた感じ。

「なびき・・・、おめー撮り過ぎじゃねーか?もうどれも同じに見えるぜ。」
「あら、パンフを作るんだからこれぐらいが妥当なのよ。その中でも
魅力的な写真が一枚でもあれば、儲けものなのよ。あ、私が撮ればどれも
載せる価値十分だけどね。」

 どうせ、パンフレット以外にも儲けに使おうと思ってるクセに・・・と
思う乱馬だが、口に出すには相手が悪い。
はあーとタメ息をつき、大量にある写真をぼんやり眺めていた。

と、ガラガラガラと玄関の戸が開く音が聞こえた。


「ただいまーっ!」
「おとーさーん!帰ってきたよー!」


 何やら玄関の方が騒がしい。
バタバタと廊下を走る音がしてだんだんと近づいてくる。
その音の方に顔を向けると、小さな二人の姿が目に飛び込んできた。

「「おとーさんっ!」」

その二人は乱馬くんを見つけるや否や、競争するかのように飛びついていた。

「な゛っ!!」

と、同時にその重さで床に倒れる乱馬くん。

あらあら、相変わらず元気なお子ちゃま達ねー。
しばらくすると、息を切らしたあかねも居間にやってきた。

「ふぅ、ただいまー。もう二人とも、幼稚園のバスから降りると、
ずーっと走って帰るんだもん。・・・乱馬、大丈夫?」

 下敷きになった乱馬くんの上で、双児の兄妹、遊馬くんと真昼ちゃんが
何やら言い争っていた。

「おれの方が早かったぞ!おとーさんに先にタッチしたんだからなっ!」
「ちがうもん!真昼がおとーさんにだきついたのが、先だもんっ!」

 どちらか早いか競争していたみたいで、どっちも引こうとしない。
負けず嫌いなのは親に似たのね。

 あんなに反発していた乱馬くんとあかね。
でも結婚するのは周りと比べると割りと早い方だったわね。
なんだかんだ言ってて、ちゃっかり惹かれあってたんだから。
それに子供を授かるのも、とても早かったしねえ・・・。

「こら、お前らもう少しおとなしく帰ってこいよ。遊馬も真昼も
こんなことでケンカするんじゃねーぞ・・・。」

ゆっくりと体を起こし、二人を膝の上に座らせる乱馬くん。

「だって、真昼まけてるクセにいいわけしてるんだぞー!」
「なによーっ!遊馬こそウソばっかりじゃないっ!」

 乱馬くんがなだめようとしても、まだ幼い二人は争いを続けている。
あかねもやれやれという感じで二人が飛ばした幼稚園バッグや帽子を拾っていた。
このままほっとくと、ずっと続きそう。
しょーがないわね・・・。

「ほら、あんたたち、二人とも早かったわよー?私が見ていた感じじゃ
同時ってところかしら。でもあかねより早く走って帰ってこれたんだから、
二人とも十分早いわよ。」

私の声にピタッとおとなしくなる二人。

「ほんと?なびきおばさん?」
「おれたち、おかーさんより早くなった?」

 遊馬と真昼は、どちらが強いという事よりも、少しでも両親に近付ける方に
感心を抱いている様子。まだ幼稚園児なのに、目標にしてる人はしっかりと
いるみたいね。さて、難しい事を言ってもわからないだろうから・・・。

「私よりこの子に聞いてみなさい。10円入れると答えてくれるわよ。」
プラスチック製のトリのオモチャを取り出し、二人に見せる。
二人はいそいそポケットから自分達のオモチャの財布を取り出し、まず遊馬が
貴重なおこずかいの10円を入れた。

「ピッピッピ、オメデトー、オメデトー」
そう言って、トリはバタバタと羽を動かしている。
「おれにおめでとーって言ってる!」
「つぎ!つぎ真昼が入れるっ!」
ドキドキしながら真昼が10円を入れてみた。
「ピッピッピ、ヤッター、イチバーン」
「わーいっ!真昼がいちばんだー!」
「なんでだよぅ、またおれが入れてみるー!」
二人共、ムキになり始めてきた。


「・・・こら、なびき。子供相手に金を取ってんじゃねーぞ・・・。」
「おねーちゃん、まだこの子達よくわかってないんだから。」

フッ、どうやら子供達、素直すぎるところも両親から受け継いだみたいね・・・。

 乱馬くんやあかねに止められて、二人はお金を入れるのを諦めた。
あかねは二人の頭をなでながら、優しく話しかける。
「さ、おやつ食べたら、お昼寝しようね。幼稚園でいっぱいいろんな事したから
疲れたでしょ?」
「うんっ、きょうね、おえかきしたら、センセーがほめてくれたの!」
真昼はあかねに抱きつき、嬉しそうに話している。
「おれはみんなとかけっこしたら、1ばんになったんだぞっ」
乱馬くんの膝の上で、誇らし気に話す遊馬。
「遊馬は、だんだんと早く走れるようになってきたな。もう少し大きくなったら
お父さんと修行に行ってもいいかもな。」
乱馬くんの言葉に、遊馬は目を輝かせた。

「・・・真昼もー・・・、しゅぎょーにいきたいなあー・・・。」
ひとさし指を口にあて、ぽつんとつぶやく真昼。

真昼・・・、そんなしぐさ、小さい頃のあかねにソックリだわ・・・。

 かすみお姉ちゃんや私が、台所でお母さんのお手伝いをしている時、まだ幼いあかねは
何もやらせてもらえずにスネていた頃があった。
そんな時はいつも私達のそばを離れようとはせず、悲しそうに隅の方でうずくまっていた。
別にあかねだけをのけものにしようとしていた訳じゃない。まだ小さかったし。
それに自分から重たいお皿とか持とうとするから、危なくて。
・・・大きくなってもお手伝いさせるのは危なかったけど。


「うーん、真昼は女の子だからね・・・。その時は家にいようね?」
「えー・・・。」
だんだんと声が小さくなってゆく。
双児なのに。一緒なのに。
自分と遊馬の違いを感じて、しだいに目を潤ませていった。

 そんな真昼をあかねは優しく抱き上げて、腕の中に包み込む。
「真昼?おかーさんと一緒のお留守番はイヤ?」
真昼の目をまっすぐに見ているあかね・・・。



・・・ドキッ、とした。



一瞬言葉を失って、私はただあかねを見つめていた。


あかね・・・。
あんた自分では気付いていないんだろうけど、そんなしぐさや優しい微笑み。
みんなお母さんにそっくりよ・・・。

 私ははっきりと覚えている。
たとえイタズラしても、お母さんは怒ることなく私にわかるように話してくれた。
かすみお姉ちゃんは、お母さんに一番長く一緒にいられたから、
そんなお母さんの優しさを受け継いだんだと思う・・・。
私はお姉ちゃんとは一緒のように振る舞えない。
だから一番手がかかったかも知れないわ。
あんたはまだ小さくて、その頃の事をハッキリとは覚えていないかも
知れないけど・・・。


 目に涙をいっぱいにためながらも、真昼はあかねの言葉にぶんぶんと首をふる。
「真昼、おかーさんと一緒にいる・・・。」
泣かないように一生懸命言った言葉に、あかねはにこっと笑って真昼を抱きしめた。
遊馬は自分だけ修行に行ける事で喜んではいるけど、真昼のそんな姿を見ては
手放しでは喜べない。小さいながらにも何かを感じ取っているようだった。

「さ、二人とも、おやつの用意はしてるからね。それを食べたらゆっくり
お昼寝しましょー!」
「「はーいっ」」





元気な遊馬、明るい真昼。

双児の子供達は、両親からいろんなものを受け継いでいる。
パンフレットをいくら作っても、天道家のそんな姿は語りきれないわね。


ふと、乱馬くんに目を移した。

あかねと我が子を見るその表情。

 テーブルの上にある大量のどの写真にもないくらい、
とても誇らし気で、立派な天道道場の跡目の姿をしていた・・・。


 ふぅ、私としたことが・・・。
いつ何時、いい写真が撮れるかわからないのに。
今、カメラを持っていない事に、こんなに後悔することはないわね。

ま、こんな表情、撮れる機会なんてこれから山程あるかも知れないわ。
その為にまたカメラの用意しておかなくちゃ。


 そうそう、もちろんこの写真の山。
家に通ってるエクササイズをしている主婦達に、高く売れるかも知れないわね・・・。




end

「ふるるすとりーと」の古宮核サマにお送りさせて頂きました。古宮さんが描かれた近未来のイラストを元にイラスト or 小説を募集されていたのです。「ゼヒ書いてみたいですっ!」とずうずうしくもbbsでカキコさせて頂きましたー(^^;
古宮さんが設定された双児の子供達「遊馬&真昼」。乱あ以外は初めてのなびき視点v天道家の母、幼いあかねを知っている彼女だから、面影を重ねる事ができたんじゃないかな?純粋に騙されやすい子供達からも小銭を稼ぐなびき(汗)だけど温かく見守っていると思いますv

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