【勝負!】
 

 

 

 ゴミ箱の中。
さっきまで一生懸命に頑張っていたものが入っている。
ため息が出そう・・・。
・・・って、もう何度も出てるけど。
あんなに本を読み返したのに、やっぱり失敗しちゃったなぁ・・・。

 周りを見渡すと、そこにはお菓子作りの器具が散々と転がっていた。
もはやチョコとはわからない真っ黒な物体がこびりついたボウル。
まぜ過ぎて形の変型してしまった泡立て器。
流し台には、こんなに使ったかな?と思い出せないくらいの道具の山。

はあ〜・・・

 また一つ。悲しいため息をついてゆっくりと流し台にいくあかね。
蛇口をひねると温かいお湯が流れてきた。
道具にこびりついているチョコをゆっくりと溶かしていく。

・・・自分の気持ちも溶けていきそうだよ・・・。

 視界がにじんでいく。
もうっ、こんなのいつもの事じゃない!
そんなに気にする事ないわ!
そう自分を叱咤激励しても、ひとつ、またひとつと涙は頬を伝っていった。



 もうすぐ最大のイベントがやってくる。
周りの雰囲気は恋する女の子達の気持ちでたくさん溢れていた。
そんな空気に男の子達もそわそわしている毎日。
もちろんあかねのクラスでもその話題でもちきりで、お昼休みには
「誰にどんなチョコをあげる?」
という話しばかりだった。

「あかねは今年どうするの?」
お弁当を食べながらさゆりが聞いてきた。
「私は別に・・・。」
興味なさそうにしながら、ちらりと乱馬の方を見てみると、
「乱ちゃん!今年はどんなチョコが欲しい??」
と右京にまとわりつかれていた。

・・・・・・・・・・・・むかっ・・・・・・・・・・・・

「ホラ見て!『簡単手作りチョコ』の特集載ってるわよ。
私は頑張って作ってみようかな〜。」
雑誌を見ながら目を輝かせるゆか。
さゆりも覗き込んで楽しそう。
「今日、帰りに材料買いに行ってみようか。あかねも行こうよ。」
「私は買わないからやめとくわ。」
「見るだけでも楽しいからいいじゃない。その後おいしいクレープでも
食べに行こう。決定ね!」



 ・・・結局たくさんの材料を買ってしまった。
だっていっぱい種類があったし、かわいかったし。
それに、その場にいた女の子達はみんな一生懸命に頑張ろうと
していたし・・・。
・・・そんな姿を見ていると私にも出来るかなあ・・・って。

 キレイに洗い流した道具には、もうチョコは少しもついていなかった。
あ〜あ・・・。
またため息。
ゆっくりと一つずつ手にとって、丁寧に拭いて片付けていく。
そうしながら自分の気持ちも落ち着かせていった。

 やっぱり私が作ったものなんて美味しくないよね・・・。
何度も何度も味見をして、隠し味もいっぱい入れたのに、
良くなるどころか、どんどん訳の分からない味になっていっちゃった。
きっとシャンプーや右京や小太刀の方が何倍も上手なんだろうなあ。

 すべて片付けた後、まだたくさん残っている材料を紙袋の中にまとめて
入れた。ミルクチョコやビターチョコ。ホワイトチョコも入っている。
どれもこれもただの四角の味気ない形。
それが恋する女の子の手にかかれば、ステキな形に変わってしまう。
しかも淡い気持ちもスパイスとなって、魔法がかかったみたいに
おいしいチョコへと変身するの。

・・・なのにどうして私が作ると呪いがかかったみたいな味になるの?

 ミルクチョコのかけらを紙袋から一つ取り出した。
ただの固まり。なんの魔法もまだかかっていない。
口に入れると、ほんのり甘くておいしかった。

 何もしなくてもこんなにおいしい・・・。
やっぱり私がバレンタインに手作りしちゃったら、
チョコがかわいそうなのかな・・・。

 そう思うと、途端にチョコがしょっぱくなった。
あれれ?なんで?
チョコってこんな味??

 考えなくてもわかる事。
これは自分に対してなさけなくなった味。
何にでも不器用な自分に、嫌気がさして出た涙の味だった。



「まーた、こんな時間に何やってんだ?」

 いきなり声をかけられてビクッとした。
「もう寝る時間だろ? さっさと寝ないと明日寝坊するぞ。」

 後ろでバフッと冷蔵庫をあける音がした。
ガサガサって何かを取り出している乱馬。
その間に急いで目をこすって、気合いを入れて深呼吸。
よし、大丈夫! いつもの私!

「何言ってるのよっ。私がいつも起こしてあげてるのに。
乱馬こそ早く起きれるように努力してよね。」
「なんでえ。俺は毎日厳しい稽古に励んでんの。その分しっかり睡眠は必要なんだよ。
・・・なあ、なんでずっとそっち向いてんの?」

 ゴクゴクと何かを飲みながら、不思議そうに尋ねる乱馬。
もうっ、なんでそんな事に気が付くの?
私は何気なさを装って、乱馬の方を向かないようにこの場を
離れる事にした。
「別に・・・。もう眠くなってきちゃったから部屋に戻るわ。
ここの電気、消しておいてね。」
乱馬から遠ざかるように歩いていった時、テーブルに置いてあった
紙袋に乱馬が気付いた。
「何だこりゃ?お菓子か?」

げっ!やばい!!

「ち、違う違うっ!明日の家庭科で使うただの材料よ!!」
ガバッと紙袋に飛びつき、隠すように背中の後ろに持ちかえた。
「な、なんだよ。明日家庭科なんてあった、か・・・。」

 私と目が合って、ちょっと驚いているみたい。
あっちゃ〜・・・、だから見られないようにしてたのに。
さっきの涙で目が赤いのかな・・・。

「・・・お前、眠いならさっさと寝ろよ。
あくびのしすぎで目が腫れぼったくなってるぞ。」

がくっ。
こ、この鈍感男!! 泣いてた目とあくびした目を一緒にしないでっ。
・・・まあ、気付かれなかったから、いっか・・・。
はぁ・・・。

「言われなくてももう寝るわ。おやすみ乱馬。」
紙袋を右手に持ち替えて台所を出ようとした時、
イキナリがしっと左手を掴まれた。
「??」
びっくりして乱馬の方を振り返ると、「あっ。」って感じで何か
言葉を探しているみたいだった。
「い、いや、あの・・・。」
持っていた牛乳パックをテーブルに置いて、頬をぽりぽり掻いて。

「あんまり無理すんなよ・・・。」

 き、気付いた??
でも紙袋の中身は見てないよね?
じゃ、じゃあ何の事を言ってるの??

「べ、別に何も無理してないわっ。もう何勘違いしてるのよバカ!」
「バカって・・・。お前もほんと素直じゃないよな。」
何もかもお見通しって感じで、クスリと笑ってる。
な、なんか悔しい!
掴まれている左手を振りほどこうとしながら、真っ赤になってしまった。
「もうっ、今から寝るんだから離してよ!」
するともう片方の手で右腕も優しく掴んで、すっと近付いてきた。

「!」

 優しい感触が唇のすぐ傍に残ってる・・・。
驚いて見上げる私に、乱馬は照れくさそうで、でも笑ってて。
「一人で甘いもん食ってんじゃねーよ。
しかも口の周りにつくような食べ方しやがって。」
「なっ・・・!」

 さっき食べたミルクチョコ、ちょっと付いていたのね・・・。
じゃなくて! い、今のキスに近いじゃないの!!

 何も言えずに真っ赤になっている私を残して、乱馬は台所から出て行った。
その時、つぶやくように言った言葉。

ちゃんと、ちゃんと聞こえたよ。


「当日は、どんなものがもらえるのかなー・・・。」



ねえ。
以前は小さなハートをあげたよね。
市販の物だったけど、それでも買う時は勇気を出したの。
そしてどうやってあげようか、やっぱりあげるのはやめようかって悩んでたわ。
でも、でもね。
ついでのようにあげた時。すっごく嬉しそうな顔してくれたよね。
今度はちゃんとした物を、ちゃんとプレゼントしてあげたい。

あの時よりも、もう少し大きなハート。

その時には、また嬉しそうな表情、
私に見せてくれるのかなぁ・・・。



end

 

 

男の子も女の子もドッキドキの2/14。街中にもたくさんのかわいいチョコが溢れていますよね。何を買うか選ぶのも楽しいし、手作りする為に一生懸命に材料を考える女の子達もかわいい。そしてこの日は女の子にとって勝負の日でもあります!あかねちゃんは不器用だけど一所懸命に作る気持ちがいじらしいv 失敗して悔し涙を流しても、それを必死に隠そうとするんじゃないかなあ。乱馬くんにもその想いがきっと伝わるはず!しかし「ミルクティー」と似たようなシチュエーション(汗)しかもほっぺたにチョコがついてるなんて、以前も生クリームをつけたお話書いてたような・・・(滝汗)
いいの。乱馬くんはお風呂上がりには牛乳を飲むだろうし、あかねちゃんはお料理にいつも一所懸命なのです!

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