【心音】
    *このお話の前作はコチラ!→ 『スタートライン』

 

 

・・・最近、乱馬の様子がおかしい・・・。

特にココが変わった、とかハッキリした事は言えないんだけど、
フトした瞬間に「前とは違う。」って感じる時がある。

なんて言うんだろう・・・。
私をバカにするようなセリフは相変わらずある。
だけど、その怒りを一瞬で消してしまうような優しい表情を見せたり
私が重たい物とか運んでいると、当たり前のように持ってくれたり。

時々・・・、そう。たまにだけど、私を眺めている時があって
「どうしたの?」と聞いても「別に。」とあっさりどこかに
行ってしまう。

前とは変わらない乱馬。
だけど、確かにどこかが違う気がする。

・・・何かが、変わろうとしているのかな・・・?
でもその「何か」が分からなくて・・・・・・。





「ふう。」
学校帰り、友達とバーゲンに行っていろいろ買物をしたあかね。
おかげで手には買物袋がいっぱい。でも欲しかったジャケットも
手に入ったし、まだ寒さが続くこの時期ぴったりのニットの帽子も
早くかぶってみたくてウキウキしていた。
「帰ってから、買った物をもう一度チェックしなくっちゃ。」
寒空の中、軽やかな足取りで家路に向かう途中、チリンチリン、と
聞き慣れたベルの音が近付いてきた。

「はっ!!」

何かを感じて、さっとジャンプするあかね。
するとさっきまで立っていた場所に、柄のついた球体の武器が
めり込んでいた。

「あいやー、あかね1人で何してるか。」
「シャンプーこそいきなり攻撃しかけないでよ!」

塀の上にいる自転車の少女は、あかねの周りを見てお目当ての
彼がいない事にとても残念そうだった。

「乱馬いないのならココには用はないあるな。出前の途中だったし
あかねの相手してるヒマない。」
「それはこっちのセリフよ。出前箱持ったまま攻撃なんてして
料理がめちゃめちゃになったらどうするのよ。」

あきれたように言うと、シャンプーは得意気な表情になり

「いつどんな時でも向かう、これ武道家にとって当たり前ね。
あかねこそ、その程度の荷物持ってるだけでよけるしか出来ないなんて
情けないね。乱馬の横にいる資格なしある。」

・・・カチン!
あかねの心の中でそんな音が聞こえた。
攻撃なんてもともと仕掛けるつもりもないあかねだったが、
シャンプーにそこまで言われてはこのままにはしておけない。
体制を正すとシャンプーを見据えて気を高めた。

「攻撃なんてね・・・、その気になればいつでも出来るのよ!」

ダンッ!と荷物を持ったままジャンプして、シャンプー目掛けて素早く
回し蹴りを出した。しかしすでにその場にシャンプーの姿はなかった。

「そんな遅い動きしてもムダある!いつでも乱馬を諦めるよろし!」

いつの間にか自転車ごと地面に降りていて、飛ばした武器も
軽々抱えると、出前箱片手にバランスよく自転車を飛ばしていった。

フイ打ちでジャンプしたつもりなのに、その動きをあっさりと
読まれてしまった上、あざやかに去っていったシャンプー。
塀の上に立っていたあかねは、去って行った方向をしばらくボーッと
見ていたが、はっと我に返るとさっとその場から飛び降りた。
スカートのホコリをパンパンと払うと、先ほどとは違う足取りで
家路に向かう。楽しい気分は既に消えてなくなり、ただただ悔しい
気持ちでどすどすと家へ帰っていった。





「な、なんだよ。ちょっと気が荒くなってねーか?」

居間でくつろいでいた乱馬を引きずり、道場で軽く手合わせでもして
ウサ晴らししようと思っていた。なのに気分はちっとも静まらない。
それもそのハズ、たくさん攻撃をしかけているのに乱馬にはすべて避けられて、
先ほどのシャンプーとのやり取りを更に思い出してしまったからだった。

「今日の動きはいつにもまして雑だな。いつも荒い攻撃だけど今日は散々。
一体どーしたんだよ。」
「雑で悪かったわねっ どうせシャンプーにも軽くかわされるわよ!」

ゼイゼイと息を切らし、シャンプーとの出来事を膨れながら話すあかね。
乱馬は何を今さらという表情をして、あかねの肩をポンポンと叩く。

「それは今に始まった事じゃねーだろ。お前だってシャンプーの
攻撃をかわしたからおあいこじゃねーか。」
「おあいこでも何か悔しいの!それにあんな風に言われちゃ・・・」
「他に何か言われたのか?」
「だから・・・っ」
それ以上は言えず、俯くあかね。

『乱馬の横にいる資格ない。』

そんなの勝手に周りが決める事じゃない。
乱馬自身が選ぶ事なんだから。将来乱馬の隣にいるのは・・・
あかねにはそれが誰なのかなんて断言できなかった。

「と、とにかくシャンプーはライバルなんだから負けっぱなしは
嫌なのよ!」

ますますがむしゃらに攻撃してくるあかね。
しばらくは気が済むまで攻撃をさせていたが、あかねが
疲れてきた頃を見計らって、乱馬はすっと背後を取った。

「ほら、もう終わり。」
「まだよ!」

振り向き様、乱馬の襟首を持ち、投げにかかろうとしたところで
ぐっと引き寄せられた。

「えっ・・・!?」

完全に動きを封じ込められ、頭を胸に押し付けられている。

「な、何っ・・・!?」
「ほーら、ちょっと黙ってな。・・・何か聞こえてくるだろ?」

言われて耳をすますと、小さくトクントクンと聞こえてくる。
乱馬の心音。あれだけ動いていたのに全然乱れる事なく
静かに脈を打っていた。
耳を澄ましていると、なんだか気分が落ち着いていく・・・。
暴れるのをやめてあかねはおとなしくなっていった。

「・・・不安がっている動物はな、心音を聞かすと気持ちが
安定するんだってよ。」
「・・・なによ、私が動物と同じっていうの?」
「同じだろ? 現に安心してんじゃねーか。」

・・・うん。なんか心地いい。
でもそれは心音を聞いているだけじゃない。
乱馬の腕の中だっていうのも私を落ち着かせるのに充分だった。

そう、こういう時に感じるの。
前の乱馬ならこんな事は絶対にしなかった。
手合わせをすれば、私をバカにした乱馬を蹴り飛ばして終了だったのに。
前とは違う乱馬の優しさ。言葉や態度、いろんな形で私を安心させてくれる。
この場所はとても安らかになれて、キリキリと音を立てていた心を柔らかく
包んでくれるの。

・・・最近の乱馬は変わった。
みんなにも優しい時があるけど、私にだけ特に違う?
・・・というのはうぬぼれなのかな。
でもその事がとても嬉しくて、私も笑顔でいる事が増えていった。





おろしていた手でそっと乱馬の背中あたりの服を掴む。
もっと聞きたくて自分からもほんのちょっとだけ、身を寄せた。

ギシッ

あれ? なんか固まる音が・・・
それに、どんなに動いても安定していた心音が
さっきよりもどんどん早くなってきたような・・・?

「お前、わざとやってんの?」
「何が?」
「・・・いや・・・」

そうつぶやく乱馬の腕の中で、目を閉じて耳を澄ます。
ドッドッドッ
・・・やっぱり早い。なんだか可笑しくてクスクス笑いながら、
さっきまで感じていたイライラがすっかりなくなった事に気がついた。

しばらく聞いているうちに、トクトクと穏やかになってきたようだ。
そのまま体を預けていると、抱きしめられていた乱馬の腕に
グッと力が入ってきた。

・・・・・・乱馬?

「・・・な、なあ、俺も聞きたいんだけど・・・。」
「え? 何を?」
「お前の心音・・・。」
「え・・・、え!?」

聞くっていう事は私の胸に耳を当てるっていう事。
乱馬を胸に抱きしめるって言う事・・・!?

「なんだよ・・・・」
「え、だって、その・・・」
「・・・・・・俺に聞かせる嫌か?」
「そ、そんな事・・・」

ゆっくりと乱馬から離れ、見上げてみると、包み込んでくれるような
眼差しを受ける。

・・・ドキドキドキドキ・・・

静かな心音じゃない。こんなの聞かせたら緊張してるって思われちゃう。
・・・でも、さっき乱馬に抱きしめられた時、突っ張っていた心が
すっと溶けたように安心できた。
そんな事が出来るのは家族と、そしてとても身近に感じる事ができる人。

乱馬にとって、私もそうなの・・・?

言葉には出さずに見つめていると、乱馬は目を細めて私の左肩に
おでこをトンと置いた。さっきまで包んでくれていた両腕は解かれ、
軽く私の腰の辺りにまわし指を絡めて組んでいる。

首の辺りにかかる乱馬の吐息。
手を伸ばして肩を抱きしめると、乱馬が目を閉じたのがわかった。

そんな横顔がとてもキレイで、すぐ傍で見ている事にも緊張してしまう。
さっきまで乱馬の腕の中で安心していたのに。
でも乱馬の表情を見ていると、私に甘えているような気がして
思わず構いたくなってくる。

肩にのばしていた右手をそっと乱馬の髪に添えて、両手で優しく
包み込む。乱馬は遠慮がちに左肩へと寄せていた額を少しずつ
ずらして胸の辺りに耳を合わせようとして・・・





「みなさーん、ごはんよー」

かすみお姉ちゃんの声が居間の方から響いてきた。
ぱっと目を開けた乱馬はそのまま体を起こし、入口の方を見る。
私もつられて顔を向けると、居間の辺りで家族みんなが集まる声が
聞こえてきた。

賑やかな家族の声。それは遠くに聞こえるけど、さっきまでの
2人だけの空間を塗り替えるには充分な効果だった。

ふっとため息をついた乱馬は、あかねから腕をほどいて、
居間の方向を見たままつぶやいた。

「飯だって。行くか。」

あかねからゆっくり離れて、道場の入口に向かう。
私はまだドキドキが止まらないのに。乱馬は何とも思ってないのかな?
少し不安になった時、ふと立ち止まった乱馬がゆっくり振り返って
私に言った。

「・・・寝る前さ、お前の部屋に行ってもいいか?」

・・・え・・・。

「なんで?」
「・・・まだ聞いてないから。」

その時の乱馬は少し目を伏せながら、とても遠慮がちだった。
そんな乱馬を見ていると、胸の奥でキュゥと小さく何かが鳴った。

「・・・うん。待ってる・・・。」




夕食を食べている間、乱馬はいつも通りおじさまとおかずの
取り合いをして、どこも変わらない様子だった。
私もお姉ちゃん達とおしゃべりして、テレビを見て笑ってと
普段通りにしていたけど、乱馬とだけは上手く目を合わす事が
できないでいる。

別に意識する事はない。
・・・だけど、何かが進もうとしている。

お風呂から上がった後、いつもくつろいでいるはずの自分の部屋が
どこか違う場所に思えてなんだか安まらなかった。

これはスタートするまでの緊張感に似ている。
ラインに立って、合図がなるまでの張りつめる時間。
そのラインには私だけじゃない。・・・一緒に乱馬がいる気がした。

コンコン。

ノックに小さく返事をすると、カチャッとドアが開いた。

「・・・よぉ。」

さっきと同じ遠慮気味な乱馬。
いつもの強気な態度を取っている彼はどこに行ってしまったんだろう。
なんだか可笑しくて、緊張が消えた。

「入ったら?」

たぶん笑顔で言ったと思う。
乱馬もはにかみながら部屋に足を踏み入れた。

何かが変わってしまうのかも知れない。
・・・でも乱馬となら大丈夫。2人でスタートするのも楽しいかもね。

少しずつ歩いてくる乱馬に、私は手を伸ばした。



end

 

 

「スタートライン」を書いた後、続けてみようと箇条書きにしてず〜〜っと寝かせておりました。お話はパンみたいに勝手に発酵してくれないのね(当たり前) 前作では乱馬くん視点だったので、その後はあかねちゃん視点で彼のがんばってる様子を書いたのだけど、ぼんやりとしか気付いていないのが彼女のいいところv でも乱馬くんの気持ちに触れてかわいい笑顔をいっぱい見せていると思います。何気なくまた続きそうな終わり方をした辺り、またその後書きたいんだなという意図が見え隠れしますが、何か思い付いたら人知れずそっと載せているかも知れないです。

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