【優しさの違い】
 

 

 

「はーい、まいどー! あ、乱ちゃんあかねちゃん、いらっしゃい!!」

賑やかな店内の中心で、ペンペンと手際よくお好み焼きを焼きながら、
威勢のいい声が響き渡る。
土曜日のお昼、家族に頼まれてお昼ご飯にと右京のお店に買いに来た。
たまにはかすみお姉ちゃんを楽にしてあげないとね。
私が変わりに作るのもいいのだけど、そうするとなぜかみんな一斉に
外出しちゃうから。・・・フンだ。

1人で持って帰るのは重たいからと、乱馬を連れてきたんだけど
右京は忙しそうにしながら、とても嬉しそうだった。

「乱ちゃん、食べていくん? それやったらサービスして
スペシャルモダン焼き作ったるで!」
「本当かよ、うっちゃん。さすが持つべきものは幼なじみだよなー。」
「何言うてんの。幼なじみプラス許嫁やろ!」

笑顔で言葉を交わす2人。
・・・もう
たったこれだけの事なのに、私の中で心が乱れる。

「ちょっと乱馬。みんなが待っているのに先に食べちゃったら
怒られるでしょ。」
私の言葉には聞こえないフリをして、目の前のお好み焼きに
目を奪われている。・・・はあ。
「右京、忙しいところ悪いんだけど、持ち帰りで6枚お願い
できる?」
「うん、ええよ。先に作る分があるから、ちょっと待っててな。」

笑顔で対応しながら、手は常に動いている。
・・・ちょっと感心。1人でお店をしていて大変だと思うのに
そんな事を感じさせない右京はスゴイと思う。
乱馬を見ると、右京がつぎつぎと焼き上げるお好み焼きに釘付け。
・・・いやしんぼ。

「・・・っ!!」

フイに右京が顔をしかめた。
どうやら、よそ見をした時にヘラをかすめて指を切ったようだ。

「ちょっと右京、大丈夫!?」
「あー、平気平気。これぐらいいつもの事やから。
えっと、バンソーコーは・・・あれ? ちょっときらしてるみたい
やなあ。」

片手でお好み焼きを返しつつ、ごそごそと棚の中を探す右京。
バンソーコーがないのなら、買ってきてあげようか、と思った時。

「うっちゃん、とりあえず水で洗い流せよ。コレで巻いてやるから。」

乱馬は自分のハンカチを取り出し、巻きやすいようにたたんでいく。
右京は言われたとおりに傷口を洗い流しているが、多少血がにじみ
出てくるようだ。

「乱ちゃん、ハンカチ汚してしまうで。」
「何言ってんだよ。止血の方が先だろ。」
「乱ちゃん・・・! やっぱりうちの許嫁なんやなあ・・・!!」

感激のあまり大喜びする右京は、乱馬に巻いてもらったハンカチを
かばいながら、やはりテキパキとお好み焼きを焼いていった。
乱馬にはオマケでスペシャルモダン焼きを作り、
「このハンカチ、キレイに洗って返すわ!」
と、笑顔で私達を見送った。

乱馬はいつもと変わりなく、フェンスの上を歩きながら
鼻歌を歌っている。
・・・別に。何も怒る事なんてない。
ただ、乱馬が右京に親切にしてあげただけ。
・・・だけど、もし私があんな風になった時、乱馬は同じ行動を
取るのだろうか・・・。
想像してみると、
「あ〜あ、やっぱりお前はまぬけだなあ。」
と悪態をついている乱馬しか思い浮かばなかった。

ムカムカムカ・・・。

「ん? どーしたあかね?」
「なんでもないわよっ!!」

ピリピリとした空気に驚く乱馬。
そりゃいきなり怒鳴られればびっくりするわよね。
だけど、どう考えたって私にあんな風に優しく接してくる
乱馬なんて想像できないもの!
なによっ、どーせ私はまぬけですよーっ!!



あかねがなぜこんなに不機嫌なのかわからない乱馬は、
内心びくびくしながら、ひょいっとフェンスから降り立った。
今、話しかけると間違いなく怒られる。
なぜかそう確信してしまったので、どすどすと歩いていく
あかねの後ろをゆっくりとついていった。

・・・俺、なんかしたかな?

考えてみても思い浮かばない。
まさか想像の中の自分に腹を立てているとは思いもしないので、
何も言わずに、家までの道のりを歩いていった。

曲がり道にさしかかったところで、前方から音が聞こえる。
ブロロロロ・・・・
「きゃっ」
「あぶねっ」
狭い道にトラックが入ってきて、乱馬とあかねをかすめるように
走っていった。

「ったく。こんな道に入ってくんなよなー。・・・ん?
あかね、何してんだ?」
振り返ると、あかねは壁に手をついて足下を見ていた。
「ちょっと、溝に足がはまっちゃって・・・」
そばに行きながら、乱馬はハァ〜とため息をつく。
「お前、武道やってるクセに何してんだよ。まぬけ。」

ブチッ

「なによっ! ちょっと油断しただけでしょっ!
これぐらい何ともないわよー!!」

肘鉄をくらった乱馬は地面にめり込みながら、
なんだ、やっぱり何ともないんじゃん。
とあかねの様子にほっとしていた。

「ほら、もうそんなとこで寝てないで帰るわよ!」

自分でしておきながら乱馬を置いていこうとするあかね。
ったく、なんで俺が殴られなくちゃなんねーんだとぶつくさ言いながら
起き上がり、ちゃんと無事に持っていたお好み焼きを手に下げて
あかねの後についていく。

だが、すぐに気がついた。



乱馬には言いたくなかった。
あんな事だけで足首を捻ったなんて知られたら、またバカに
されるに決まっている。
なるべく普通に歩いてはいるが、痛めた方の足をかばいながらだと
歩くスピードも変わっていた。

ハァ〜・・・
むっ、後ろでまたため息。
今度は何を言うつもり!?
そう身構えて振り返ると、ふわっと身体が中に浮いた。

「え??」
「んー、やっぱり寸胴だな・・・」

改めて何を言ってんのよ! と怒る前に、乱馬に抱き上げられて
いる事に気がつく。

「ちょ、ちょっと、何してんのよっ」
「何って・・・、このままじゃいつまで立っても家に着かないだろー?
俺の親切に感謝しろ。」

な、なんか偉そう!!
びっくりよりもムカッときた。

「ふ、普通に歩けるわよ!」
「お前鈍いからまた転んでしまわないとも限らねーよ。」
「だ、だけど、こんなとこ誰かに見られたりしたら・・・」
「ん? そーだな・・・」



「キャーッ そんなに高く飛ばないでよ、バカ!!」
「これぐらいで怖がってんじゃねー! ほらしゃべると舌をかむぞ!」



乱馬にとってはいつもの道のり。
だけど、屋根の上って高いのよ!!

「キャーッキャーッ!!」
「耳元でそんなに騒ぐな! 落っことしても知らねーぞ!!」

落ちないように無意識に乱馬にしがみつく。
騒がないように気持ちを落ち着かせて、ゆっくりと目を開けてみると
乱馬の肩越しに周りの景色が見えてきた。
身体は優しく、だけどしっかりと支えられていて、強い振動とかが
あまりない。ジャンプする時も優しく飛んでくれてるみたいで、
軽やかに動いているのがよくわかる。
・・・乱馬の香りがする・・・。
こんなに近くにいる事なんて滅多にないけど、その香りだけで
守られているような、そんな気持ちになっていった。



「ほら、到着。」
着いた場所は天道家の屋根だった。
そんなにスピードは感じなかったのに、あっという間に到着してしまった。
身体はまだ乱馬に抱き上げられたまま。
首にまわした手をゆるめて、遠慮がちに乱馬を見上げる。

「・・・屋根からじゃ私の部屋に入りづらいじゃない。」

こんな小さなワガママぐらい言ってもいいよね?

「・・・はいはい、わかりました。お部屋までこのまま
お連れいたしますよ、お姫様。」
おちゃれけて言う乱馬がなんだかおかしくて、無意識に
笑顔になってしまった。

部屋まで連れていってくれて、一度私を降ろした後、
居間にお好み焼きを持っていってくれた。

しばらくしてから、トントンとノックされる音。

「お前、足捻ってんだろー? テーピング巻いとくか?」

テーピングを片手に部屋に入ってきた乱馬は、ベッドに座っている
私の足下に来て、テキパキと巻いてくれた。
「まったく、お前はドジなんだから」「よそ見ばっかしてるし」
と悪態はつくものの、痛めた足に触れる手は優しい。
いつもなら「うるさいわねっ」と言い返すところだけど、
今日くらいはだまってみた。

「・・・なんで何も言わねーんだよ。俺1人で話しててバカみてーじゃん。」

恨めしそうに見上げる乱馬。

あ・・・、そっか。
こんな時に気がついた。
乱馬が悪口を言う時って、照れ隠しもあるんだ・・・。

「いいじゃない。どうせバカなんだから。」
「まぬけにそんな事言われたくねーよ。」

ちょっとムカッと来た。・・・まあ押さえて押さえて。

「そんなにたいした事じゃなかったのに。」
「なんだよっ。お前は素直にお礼も言えねーのかっ。」

そういえば言ってなかったっけ。くすくす笑いながら笑顔を向ける。

「ふふっ、・・・ウソよ。運んでくれてありがと。」



あれ、なんか固まってる・・・?



「い、いいけど・・・、それよりあかね、腕んとこすりむいてる。」
「え? どこ?」
「・・・ここ。」

立ち上がり、私の右手をとって手の甲を見せた。
すりむいた、というよりもかすった程度かな。それぐらいなら別に・・・
と言おうとしていたら、乱馬がそっと唇を当てた。

あっ・・・とびっくりしたけど、声には出さず、されるがままに
おとなしく見ていた。ゆっくりと唇を離す乱馬と目が合う。

「・・・そんなにすりむいてないよ。」
「・・・一応止血。」



乱馬の優しさは全部一緒。
・・・とは思えなかった。

私を見つめる瞳の中に、答えがある。
まだ言葉にして言えるほど、私達は大人じゃない。
だけど、私にはそれだけで気持ちが温かくなっていくのがわかった。

 

 

 

end

 

 

 

 

以前書いていたものを手直ししたんだけど、ほとんど書き直してしまった!あはは〜
時期にすれば、原作の中盤くらいかな?お好み焼きを6枚しか頼んでないので、八宝斎やのどかさんがいない頃ですね。乱馬くんは基本的に女の子には優しいとは思うのですが、あかねちゃんに対してだけ違う気がします。荒っぽく扱っている、といえば聞こえが悪いけど、あかねちゃんにだけは、気を使わずにぽんぽんと言っていますよね。半分照れ隠しもあると思う(^^)そんな違いにあかねちゃんが気付いた時、少しずつ距離が近くなっていくんじゃないかなあ・・・。

〓CLOSE〓